多文化カリキュラム

全校カリキュラムで特色を出している学校がある。1990年代から2000年代にかけて全校で多文化教育を推進し、素晴らしい成果を挙げた学校だ。当時のオーストラリアは、国是である多文化主義を推進するためには学校教育が鍵となると考え、学校での多文化教育を推進した。

ここで言う多文化教育とは、移民や難民など文化的マイノリティの生徒の不利な立場を是正するとともに、彼らのもたらす言語や文化を貴重な教育資源として活用し、すべての生徒に対して多文化主義の理念に基づいて行う教育活動のことである。私は、2000年代に同校をたびたび訪問し、その取り組みを調査させてもらった。

当時は全校200人足らずで、教職員は40人ほどだった。各学年1クラス。生徒の約3分の1は英語を母語としておらず、入国したばかりの難民生徒が多かった。カリキュラム全般に多文化主義の理念が盛り込まれ、様々な角度から多文化教育へのアプローチがなされていた。生徒の中には、言語や文化ばかりでなく、経済面でも難しい問題を抱えている子も多くいる。

しかし、学校の雰囲気は明るく、活気があり、子どもたちは元気いっぱいだ。小規模校で目が行き届きやすいということもあるのだろうが、教師は自分の担当する生徒だけでなく、どの生徒にも目を向けている。

学年を超えた生徒のつながりも見られる。アフリカから来たばかりの2年生の少女が、自分の行く場所がわからず困っているとき、高学年の少女がさっと駆け寄って声をかけていた。こうした多文化的教育実践が評価を受け、同校は2000年代に2回、州政府から表彰されている。

具体的には、差別や偏見をなくす「反差別教育」、一人一人の生徒の可能性を伸ばす取り組み、新規入国者プログラムやセラピープログラム、難民生徒のトラウマ克服支援、外部の様々な機関との連携が評価された。教育プログラムは数多くあり、わずかな教職員でどうしてこれほどのプログラムを実施できるのか、不思議に思えるほどだった。

だが、各プログラムが有機的に結びつき、多面的に生徒を支援していることは実感できた。その後、同校の取り組みは評判を呼び、生徒数は徐々に増加し、現在は300人以上の生徒が在籍している。カリキュラムは改定されているが、多文化教育の理念は受け継がれており、対人関係スキル教育や問題解決スキル教育など長年実施されているプログラムは多い。