国際奉仕委員会

入会から数年後、僕はクラブ内では国際奉仕委員長という役職に就いていた。国際奉仕とは大げさな言葉だが、うちのクラブ用語で翻訳すれば、「三月にオーストラリア・ゴールドコーストから姉妹クラブのサーファーズ・パラダイスロータリークラブの一行一五人が来日し、うちのクラブの創立五〇周年記念式典に参加するから、その面倒をみよ」ということだ。

:ロータリーの五大奉仕部門の一つ。他国のクラブ等と国際理解、親善、平和を推進するための活動をいう。ロータリーの五大奉仕とは、クラブ奉仕、職業奉仕、社会奉仕、国際奉仕、青少年奉仕である。

このクラブとの交流は長く、数年に一度お互いが行き来する関係にある。僕も二度、オーストラリアに訪問した経験がある。接待は、彼らが成田空港に着いたときから始まる。

まず、一台の大型バスを借り切って早朝高崎から迎えに行く。こちらからは通訳者を含めて五、六人の会員がバスに乗り込む。もう何度か会った連中同士なのだから、名刺交換や胸に垂らす名札の類いは要らないと思うのだが、古参会員には必要なようだ。

僕は通訳者すらも要らないと思う。お互いがブロークンでも英語で会話をする方が楽しいし、百歩譲っても、彼らが日本に来るときにはこちらは英語の通訳者を用意するが、反対のときには先方は日本語の通訳者を用意するべきだ。

これまではこちらが訪問する場合、日本から通訳者を帯同するか、現地で在豪の日本人通訳者を雇ってきた。やっぱり、その不公平感は否めない。

バスのなかで、以前から顔見知りのオージーから得意そうに金色のバッチを見せられた。バッチには、老人らしき人の横顔が刻んである。僕が「分からない」と言うと、彼は驚いたように、「ポール・ハリス!」と叫んで、その後は一言もしゃべらなくなった。ポール・ハリスロータリーの創設者)の意味が分かるまでにしばらく時間がかかった。

僕はそのときはそんな程度の知識しかないロータリアンだったのだ。いまではそのときの反省を込めて、ロータリー財団への寄付額に応じて授与されるバッチ(「ポール・ハリス・フェロー」という。ロータリー財団に一○○○ドル以上を寄付した場合、その段階によってバッチが贈られる)は自分の手許にたくさんある。

成田から、すぐに高崎に戻るわけではない。事前に彼らの希望(世界遺産に行きたい)を聞いていて、初日は栃木県の日光に向かった。日光観光の際、そこにその人しかいないという英会話のできる日光東照宮専門のガイドを予約して観光をする。昼食は栃木和牛のコースだ。長い昼食が終わって、やっと高崎に向かった。