ロータリーへの勧誘と入会

時間になった。おもむろにYJ幹事が立ち上がって言った。

「会長、点鐘(てんしょう)をお願いしま~す」

NK会長はステージに立ち、目の前にある洋風の釣り鐘のような形の鐘を小さな木槌(きづち)で一回叩いた。

チ~ン! 心なしかか細くて、でもいやに澄んだ音がした。その瞬間、会場の皆が一斉に立ち上がる。

何だ? 何が起きたんだ? 僕も立つのかな?

国歌「君が代」の斉唱が始まった。僕も唱う。次に幹事は、「ロータリーソング『奉仕の理想』斉唱!」と宣(のたも)うた。何だ、それは? 僕は唱えない。幹事は、さらに「『四つのテスト』(※1)の唱和!」と言う。まったくわけが分からなかった。すべてが終わったとき、皆は一斉に拍手をして座った。心を落ち着かせるまでに少し時間がかかった。

おい、この会は大丈夫か? 変な宗教団体じゃないだろうな? チンと鐘を鳴らして、皆で一斉に立ち上がり、お題目を唱える。まるで、危ない宗教団体か「大人の幼稚園」じゃないか!

そうこうしているうちにも会のスケジュールは進んでいく。最初に、新会員を紹介すると幹事が発言した。新会員は僕を含めて二人。自己紹介の順番はアルファベット順だ。……アメリカンだからね。

最初は、同期の一人、OMさんという眼科医。ドモリながらも面白い話をした。彼は、その後二○年くらい幽霊会員(会費だけ納めて出席をしない会員)を続け、あまり話が出来ないままに退会していった。OMさんは医院を経営しているため、月曜日の一二時一〇分からの例会には出られるはずもない。

でも、彼にとってはロータリーに所属していることが社会参加の一つの証しであったはずで、幽霊会員でもクラブに会費では迷惑を掛けていないことと物理的に出席が出来ないこととの板ばさみの中で退会を決意したのだ。

仮に、彼にそれを相談する友だちがいれば、また違った答えがあったかも知れない。彼の気持ちまで忖度できなかった同期の僕には少しツライことだった。会費をキチンと納めている幽霊会員の進退扱いは難しい問題だ。彼はクラブに対してどんな気持ちを残して退会していったのだろうか?

次は、僕の番だ。事前にレクチャーされたように、「伝統と格式のあるクラブに入れていただいて感謝している……」というフレーズを織り込み数分で切り上げた。少し緊張したが、失敗はしていないと思う。皆を見回したが、あまり関心がなかったみたいだ。

なかに何人かの見知った顔があった。あとで挨拶に行った方が良さそうだ。そのとき握手を忘れないようにしようと考えた。