なおこの案には当然のことながら反対が多いと思う。まずそれだけの金を使うならもっとほかのことに使え、こんなことまでする必要が本当にあるのだろうか、そんな規模の洪水が本当に起きるのかという疑問が多いだろう。

でもこれには誰も答えられないだろう。これこそ優先順位の問題だ。ここにもうこれ以上住み続けたくないという住民が多数でないのならば、無理に進めることはない。

人口減少からコンパクトシティ化が全国で進められようとしているが、掛け声だけでなかなか実現しない。総論は賛成だが、自分が移住するということになるとなかなかその行動には結びつかない。少々暮らしが良くなるといった程度では、人はなかなか動かない。

人は「そうしなければならない差し迫った理由」がなければ行動には移さない。転勤など仕事の都合で移住するのは、それが「そうしなければならない差し迫った理由」だからだ。

多くの人にとって洪水災害が「差し迫った理由」にならないのであれば、この話は無理だろう。

でも寺田寅彦の言葉に「天災は忘れたころにやって来る」というのがある。忘れていても良いことではないはずだ。また、いままで行ってきたこと、造ってきたものが無駄になるのではという意見もあるだろう。

中小河川の水量を調節しながら江戸川へ排水する地下50メートル、全長6.3キロメートルにも及ぶトンネルがある。2006年に本格的に使用を開始した、「地下神殿」とも呼ばれる首都圏外郭放水路で、この周辺地域をこれまで何度か洪水被害から守ってきている。

また埼玉県内にある荒川の調節池なども、昨年の台風で大きな効果をもたらした。一部で完成しているスーパー堤防などもそうだろう。

こういうものに多大な金をかけてきたのに、ということだろうがこれらが今すぐ不要になることはない。東京湿原が完了するのは30年後であり、完了後といえども荒川右岸の北区、荒川区、台東区、中央区を水害から守るためには必要かも知れない。

そもそも災害予防に関するものが「無駄」というような議論はないのではないかと思う。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『自然災害と大移住』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。