りんごを追いかけて

くまのトムは今日は朝から八田さんの畑でお手伝い。

はしごにのぼって、りんごを摘んで、それから手押し車にそれをのせて、倉庫にしまって。

やれやれ、やっと今日の仕事は終わりました。

「ごほうびだよ」

にこにこしながら八田さんはトムの背中にぎっしりりんごのつまった袋を背負わせてくれました。

トムは大喜び。りんごが大好きなのです。これで冬のあいだのおやつは大丈夫。

「寄り道しちゃ駄目よ」

八田さんのおくさんが心配して言います。

「大丈夫」

元気よくこたえてトムは重い袋を背負ってエッチラオッチラ山道を急ぎます。暗くならないうちに帰らなければなりません。

峠でトムはひとやすみ。おろした袋から、りんごの甘い香りがします。

「そうだ、ひとつだけ味見をしてみよう」

トムは袋の口をあけました。

そのとたん、袋の中がきゅうくつでたまらなかったりんごたちが勢いよくとびだしました。

「ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ」

山道をにげてゆきます。

「まって。まってよ」

トムはあわてて追いかけました。

「ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ」

りんごは、あっというまにどこかへかくれてしまいました。トムは、草をかきわけかきわけ、りんごを探します。

途中で年をとったヤギが山道をのぼってくるのに出会いました。みると、首に袋をぶらさげてうれしそうにしています。そして、言いました。

「なにか探し物かい」

「ええ、りんごをなくしたんです」

トムがこたえると、ヤギは首の袋からりんごをひとつ取り出して言いました。

「これかい。今そこで拾ったんだ。今夜は久しぶりに好物のりんごがたべられると、神様に感謝したところだった。君のものだったんだね。お返しするとしよう」

トムはあわててりんごを返して言いました。

「さしあげます。どうぞ、たべてください」

ヤギはうれしそうにりんごを袋にしまうと、白いひげをなびかせながら帰ってゆきました。