ライオンになった園長先生

町の真ん中に小さな保育園があります。園長先生は若いときは消防署にお勤めでした。結婚し可愛らしい二人の子の父親になりました。先生はこどもたちとずっと一緒にいたいと思いました。それでこの保育園をつくったのです。広い園庭に二本の桜の木を植え、さくら保育園と名づけました。

砂場やブランコ、すべり台をつくりました。お花畑や小さな動物園もつくりました。リスや羊、ニワトリやウサギがいます。赤い屋根の小さな家もつくりました。こどもたちが出たり入ったりして遊ぶことでしょう。保育園の建物には、鉄骨で高く頑丈な場所をつくりました。津波が来たとき避難できるようにです。

「津波なんか来るもんか」

海から遠かったので、多くの人はそう思いました。ひそかに笑った人もいました。たくさんのこどもたちがやってくるようになりました。みんな園長先生が大好きです。園長先生もこどもたちが大好きです。

桜の木は毎年みごとな花を咲かせました。その木が見上げるほどの大木になるころには園長先生の二人のこどももすっかり大人になり、園長先生のお手伝いをするようになりました。ある日突然大きな地震がおきました。誰も経験したことがない大きな強い地震でした。

ちょうどこどもたちはおやつを食べる準備をしていたときでした。「ドーン」という大きな音がして、園の建物が激しく揺れはじめました。

「机の下にもぐるんだ」

すぐにカミナリのような園長先生の声がしました。みんなはすぐに机の下にかくれました。みんな怖くて声も出ません。ゆれが何とかおさまったあと、園長先生はすぐに建物の中の「高い場所」にかけ上がりました。海はみえませんでしたが川の様子がいつもと違うのに気がつきました。先生はすぐにみんなを「高い場所」に避難させました。

心配したお母さんたちが続々と集まってきました。そのお母さんたちも先生は「高い場所」に案内し、しばらくそこにいるようにすすめました。家に早く帰りたいと、みんな思いました。

しかし、先生は真剣な顔でみんなを引き止めて言いました。

「だめだ。津波が来るかもしれない」