まっててね

じいじはいいな。庭にすてきなドングリの木を三本ももっている。

その木にカワセミが飛んでくる。ニワトリの親子もこの木の下が好きだ。ぼくはまだ見たことがないけれど、夜にはタヌキも来るってじいじが言っていた。

秋になるとじいじはいそがしくなる。ドングリがたくさん葉を落とすから。じいじはほうきで落ち葉を一枚残らずはいてゆく。

ぼくは落ち葉の中から実を残らず拾いあつめてポケットにつめこんでゆく。

ぼくはドングリの実でもういろいろなものを作った。小さな家や、鉛筆立て。船と飛行機も。お母さんにはネックレス、妹のアヤとセナにはおそろいのブローチとかみかざり。お母さんは、ドングリでおいしいケーキをやいてくれる。

ぼくはドングリの木の下で、妹たちとかけっこをしたり、おにごっこをして遊ぶ。じいじがドングリの木の枝に作ってくれたブランコでひとりぽつんとしているのもとても好き。

ふと、考えた。ぼくの庭にもこんな木がほしいな。ぼくはじいじにきいてみた。

「この木、どこから探してきたの?」

じいじが一枚の写真を見せてくれた。白い帽子をかぶった小さな女の子が両手を前につきだすようにひろげて笑っていた。よく見るとその手のひらにちょこんと三つドングリの実。

「だれ?」

その小さな女の子はこどものころのお母さんだった。その日、お母さんは遠足で山からドングリを拾ってきた。それからじいじに手伝ってもらって庭にうめた。

すると芽が出て、葉が出て、三十年後、こんなに立派なドングリの三兄弟になった。

「お母さん、ドングリから芽が出たときはうれしかった?」

ぼくがきくとお母さんは

「もちろん」

笑ったその顔が幼いときのお母さんにもどったみたいに見えた。

じいじの家から帰るとき、ぼくはポケットにドングリの実をいっぱい押し込んだ。

「ドングリたちは果たしてぼくの家を好きになってくれるだろうか?」

それだけが心配だった。気に入って芽を出してくれると良いな。お母さんや妹たちに手伝ってもらってぼくはドングリたちを庭に埋めた。毎日ぼくはドングリたちに水をかける。そしてこう言う。

「大きくなあれ大きくなあれ」

子守唄を歌ってあげることもある。ドングリたちがよく眠れるように。そして、元気な芽を出すように。