雨に唄えば

“グッド・モーニング”に続いては、ドンが恋の喜びを胸に踊るナンバー “雨に唄えば”。

当初の脚本では、“グッド・モーニング”ではなくこの歌を三人で踊ることになっていた。ジーンの判断により彼のソロに変更されたものの、その内容も、映画のどの部分に挿入するかも不明なままだった。フリードとイーデンスがジーンに訊ねても、

「……まあはっきりは話さなかった。僕が雨に降られて、歌い出して、晴れ晴れとした気分になって、幸せな気持ちを取り戻すってね。それだけだよ。二人とも僕がまだ考えてないことは承知してたんだ。それでも心配はいらないって伝えたよ。何か考えつくだろうってね。……」

数日後、ジーンは歌詞の“シンギン”のあとに“アンド・ダンシン” を付け加えてみた。“シンギン・アンド・ダンシン・イン・ザ・レイン”と口ずさむと、踊ることで希望に満ちた気持ちを表現できる確信が突然生まれ、アイデアが動き始めた。

「……それで脚本をたどっていって、どの時点が僕にとって一番幸せなのかを調べてみたんだ。そうすると一番楽しくなるのは、キャシーの家の前にいるシーンだというのが判った。トーキーの難しい問題を克服して、撮影中の映画“闘う騎士”をミュージカル“踊る騎士”に変えようと決めた後の場面だ。彼女にキスをして、愛してるとはっきり意識したその後だね。この時点からすべてが、しかるべきところにうまくはまっていったんだ……」

ジーンはジニー・コイン、美術監督のランドール・デュエルと共に常設の街路を備えた野外ステージをくまなく回り、ダンスに適した通りを探した。二番ステージのイースト・サイド通りが気に入った彼は、街灯をはじめそこにある物を利用して振付けを考えた。

ステージをシートで覆い夜の街並みを再現した。天井にパイプを張りめぐらせ、十分な量の雨を降らせるようにした。道路の調整を行い、適度な深さの水たまりも作らせた。

戸口の前でキャシーとキスをして別れたドンは、車を帰し一人歩道を歩く。ハミングから歌に変わり、傘をすぼめ、喜びのあまり街灯に飛びつき、軽やかにステップを踏む。途切れた樋からほとばしる雨水を浴びる。

車道に飛び出し、傘を両手で持ち回転しながら弧を描くように踊り回る。歩道に戻ると車道との間を行き来し、水を足で跳ね上げ、水たまりで飛び跳ねる。訝しげに近寄って来た警官に気づくと、はしゃぐのをやめ、微笑みかける。歌をやめ、通りかかった男に傘を譲ると警官に手を振り、大手を振って去って行く。

今日、タイトル曲 “雨に唄えば” はこの映画を代表するナンバーであるばかりか、ミュージカル映画史に燦然と輝くダンスシーンとなった。