雨に唄えば

「雨に唄えば」では数多くのフリードの曲が使われているが、歌やダンスを伴って演じられるのは十一の場面である。

このうちの多くはストーリーの流れに沿って挿入されており、ナンバーと物語の関係が自然で無理がない。「踊る大紐育」ほどではないが話がスムーズに進んでいく。さらにそれぞれのナンバーのダンスや振付けが優れており、いずれも粒ぞろいであるところも、作品全体のレベルを押し上げている。

個々のナンバーについて見ていこう。

映画の冒頭、ドンとコズモの過去を回想するシーン―ヴォードヴィルの舞台でバイオリンを弾きながら歌い踊る“フィット・アズ・フィドル”。

勝手知ったヴォードヴィル芸を息もピタリと踊る二人の実力を堪能できる。バイオリンを小道具にタップを踏みながら滑るように舞台の上を移動し、相手の周囲を回るようにして互いに前後を入れ替わる動きが立体感を生み、二人を追うカメラの動きがスピードと躍動感を過不足なく描き出す。

冷静に考えればこんな凄い芸を見て客席からブーイングが起こることはありえないが、そこは物語の流れ上仕方がない。直前の子供時代を描いたシーンも含めて、ジーンやオコンナーの実体験をもとにしていると思われるが、芸を糧に生きていた人たちの当時の実像を知る上でも興味深い。