続いてパーティーに余興で派遣されたキャシーが、一座の女の子たちと明るく踊る“あなたの夢ばかり”。あくまでレイノルズの明るくかわいらしい魅力を印象付けることが目的のシーンなので、彼女をグループ前列の中央に据え、曲の初めから終わりまでしっかり撮影されている。

親指を舐めるいささか下卑たしぐさも含め、ナイトクラブから派遣されたコーラスガールの上等とは言えないがよく訓練された踊りという設定を上手く描いた振付けである。お目付け役としてなのか、彼女の向かって左側でジニー・コインが踊っている。

キャシーが見つからず、サイレント映画の演技にも自信を失うドンをコズモが励ましながら、「みんなを笑わせろ」と歌い踊るナンバー、“メイク・エム・ラフ”。このナンバーは、オコンナーのためにソロダンスを作る必要を感じたジーンが依頼し、フリード&ブラウンのコンビが作った新作である。

振付けのアイデアを考えるため、ジーンのすすめでオコンナーはジニー・コイン、キャロル・ヘイニーと共にリハーサル室にこもった。様々な小道具を用意してもらい、ヴォードヴィル時代に自身が身につけた芸やおはこのネタを演じてみせた。

その中のいくつかは以前出演した映画の中ですでに使ったネタだった。コインやヘイニーに受けたネタ―壁を駆け上がっての後方への宙返り、ソファの上での首のない人形とのやり取り、床の上に側臥位になり肘をついて時計の針のように体をグルグル回転させる動き(これは三バカ大将の一員、カーリーのおはこで、彼に許可を取っている)等々―はノートに書き留められ、三人によって一つずつ、曲の適当な場所に当てはめられていった。

全体の流れはサイレント時代の撮影現場を参考にした。サイレント時代には数本の映画が隣り合わせで同時に撮影されていた。それにならってその場にある家具や道具を利用しながら、異なる背景を渡り歩くようにしてパフォーマンスが続けられた。

“メイク・エム・ラフ”はギャグやアクロバットを音楽にのせて演じたに過ぎず、ダンスとは言えないという意見もある。しかし、素晴らしい体技と笑いに溢れた“メイク・エム・ラフ”は、「雨に唄えば」ばかりでなくオコンナーを代表する一曲となった。

ただし“メイク・エム・ラフ”の旋律はコール・ポーターが「踊る海賊」のために作った“ビー・ア・クラウン”にそっくりで、「悪意のない剽窃」とでも言うしかない作品だった。曲を聞いたMGMの誰もがそれに気づいていたものの、口に出しては言えなかった。しかし見学に訪れたアーヴィン・バーリンが指摘したため、そばにいたフリードは口ごもってしまったと言う。フリードがなぜこれほど似た曲を作ってしまったのかは謎のままである。