ギャンブル依存症

出張の目的であるシステムのバージョンアップは予想以上に順調にいき午前中で終わってしまった。つまり、午後は自由な時間ということになる。一人の出張であれば出張先の映画館や図書館で時間を潰すのであるがたまたまこの同僚にパチンコに誘われたのである。ここで断れば救われていたのに魔が差したように何十年とギャンブルを封印していた箱を開けてしまったのだ。

そろそろ一生懸命生きてきた自分にご褒美を上げてもいいのではないかと甘やかしてしまったということだ。今から思えばそれが運の尽き、蟻地獄の中に足を突っ込んでしまったということである。

それでも、この時あっさり負けて辞めてしまえば良かったのであるが、運命のいたずらは悪い方、悪い方へ導いていった。なんと千円で八千円位勝ってしまった。まさにビギナーズラック。地獄の釜の蓋が開いた瞬間であった。私は一時間足らずで七千円も勝って途方もなくびっくりしたのだ。何故なら過去の経験からギャンブルは負けるものと信じていたからである。

でもこの説は正しいことが分かった。言い換えればギャンブルは最終的には負けて終了するということである。何故なら勝っているうちは止められないからだ。ここに気づいた時は後戻りができないところまで行ってしまっていた。つまり、この一回のパチンコで味をしめてしまったということである。

言い方を変えればパチンコは勝てる、しかも美味しいかも、と学習したということである。出張も終わり通常の勤務になった後も気がついたら会社帰りに最寄りの駅のパチンコ屋に居た。それでも最初の頃は羽根物と言われる高額な勝利もあまりないが負けも少ない台を選んで遊んでいた。もちろん小遣い範囲である。

この時は負け額も少なかったが高額な勝利もなかった。この頃はまだギャンブル依存症なんてどこ吹く風、まさか自分がそうなるとは露程知らなかった。とある日、何を血迷ったのかパチンコ屋の中心であった連チャン機を、やはりびくびくしながらやってみた。連チャン機というのは一回大当たりを引くと五千円位になるが、それが五回も十回も続けて当たり続けることがあるパチンコ台のことである。

最初は恐る恐るその機種に座ってみた。最初の千円は本の数分で呑み込まれてしまった。やはり、そんなに当たる物ではない、あと千円でいつもの羽根物に移動しようと思い千円を投入する。するとなんと二千円で大当たりが出てしまったのである。もうそうなると脳内快楽物質ドーパミンが出まくり状態になる。

ただこの日は単発の当たりであったので一回きりの当たり。ただ欲が出た私はもっと勝とうと思い全ての出玉を使い切ってしまった。結果的には三千円程度負けた。ただ、この時は負けた悔しさよりも大当たりした喜びの方が大きく朝まで興奮状態は収まらなかった。