ソロで踊る曲の企画を抱えていたジーンは、振付担当のニック・キャッスルを訪ねた。キャッスルは新聞紙の上でタップを踊り、この音はどうかと聞いた。気に入ったジーンは翌日リハーサル室へ行くと、新聞の上でタップを踊るルーティンを考え始めた。だが、これだけでは何かが足りなかった。もう一つ別の音を求めて彼は様々なことを試した。新聞を破ったり、上でタップを踏んだり、くしゃくしゃにしたり。散歩をしながらも、小石を踏みつけたり、空き缶を蹴ったり。しかし、やはり物足りなかった。

そこで彼はもう一度考え直してみた。

「自分に聞いてみたんだ。ダンスはどこで踊る? 木造の納屋だ。納屋の中でダンスはどうなる? 難しいね。なぜ? 床板が平らじゃないからね。それだ……ピンときたんだ。ギシギシいう床板さ! それこそ探してた音だ。その後は順調に進んだね。一時間くらいでダンスの筋書きが出来上がった。……」

しかし、リズムに合わせ上手く足で新聞をちぎるには、紙の質が問題だった。新聞紙に刻み目もつけてみたが、ステップを踏むとばらばらになってしまった。新聞の古さによって紙質が違い、新しいと全くちぎれなかった。彼と小道具係は偶然から少なくともヶ月前の新聞がダンスに最も適していることに気がついた。そこで三ヶ月前のロサンゼルス・タイムズを出来るだけ多く集め、靴底の状態が変化しにくい靴も選んで撮影に臨んだ。

出来上がったナンバーは次のようなものだった。

納屋での稽古も佳境に入るが、ジーンの指示にデ・ヘイヴンが反抗し口論になる。

彼女が出て行った後でガーランドは、妹を傷つけぬようもっと優しく接して欲しいとジーンをいさめる。稽古が終わり灯りも落とされた舞台を、一人残ったジーンは口笛を吹きながらゆっくりと歩く。カメラは引きながら少しずつ角度を変え、舞台全体とジーンを斜め上から映しだす。床板の軋みに気づいたジーンは、何度も踏んで音を確かめ、軽くタップを踏み始める。次に床上の新聞紙に気づき、今度は新聞紙の音に興味を示す。

床と紙のこすれる音、新聞の上で踏むタップ。これに床板の軋み、木製の段への上り下り、床上でのタップを織り交ぜる。音楽の音量が上がると共に、動きも大きくテンポも速まる。最後は踊りながら足で新聞紙を半分、四分の一とリズムに合わせて切り分け、断片を蹴散らすが、残った新聞の記事にふと目が留まり、手に取って読みながら静かに袖に消えていく。