踊る大紐育

出来上がったナンバーは次のようなものだった。

納屋での稽古も佳境に入るが、ジーンの指示にデ・ヘイヴンが反抗し口論になる。

彼女が出て行った後でガーランドは、妹を傷つけぬようもっと優しく接して欲しいとジーンをいさめる。稽古が終わり灯りも落とされた舞台を、一人残ったジーンは口笛を吹きながらゆっくりと歩く。カメラは引きながら少しずつ角度を変え、舞台全体とジーンを斜め上から映しだす。床板の軋みに気づいたジーンは、何度も踏んで音を確かめ、軽くタップを踏み始める。次に床上の新聞紙に気づき、今度は新聞紙の音に興味を示す。

床と紙のこすれる音、新聞の上で踏むタップ。これに床板の軋み、木製の段への上り下り、床上でのタップを織り交ぜる。音楽の音量が上がると共に、動きも大きくテンポも速まる。最後は踊りながら足で新聞紙を半分、四分の一とリズムに合わせて切り分け、断片を蹴散らすが、残った新聞の記事にふと目が留まり、手に取って読みながら静かに袖に消えていく。

一見、ジーンのタップを新しい趣向で見せるだけのナンバーで、ストーリーとは無関係なように見える。

しかしそうではない。言い争いやガーランドの諫言など激しいやり取りの後、一人になったジーンを静寂が包む。言いすぎたことへの悔恨、それでも収まらない怒り、ガーランドへの思いなどがない交ぜになりながら、ジーンは所在なく歩く。

彼の内面への問いかけが静謐さの中で観客にも伝わってくる。

やがて問いかけは床板や新聞など外界のものへと方向を変える。当初は探るように静かに始まったダンスは次第に踊る喜び、恋への希望を象徴するかのように激しく、ダイナミックに盛り上がっていく。

リズムに合わせ新聞を一気に切り裂く音の爽快感は喜びの証でもある。最後はジーンの振付けによくあるように、どこか愁いを帯びて静かにダンスは終わる。

床板の軋みや、ちぎれる新聞紙など小道具に目を奪われがちなナンバーである。

もちろんそういったプロップダンスとしての楽しさ、素晴らしさもある。だが、その本質は、ストーリーの流れを引き受けながらジーンの心の動きを伝え、気持ちを掘り下げ、さらに今後の恋や希望を象徴することによって物語を推し進める力にある。

古くさいストーリーの作品にありながら、「ユー・ワンダフル・ユー」は新時代のミュージカルにおけるナンバーとしての役割を十分に担ったパフォーマンスだった。