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ブラック

おそらく今、黒玉はもの凄い重さになっているに違いない。

そしてそれは指数関数的な勢いで重量を増し続けているのだ。私は非常識なものを目の当たりにしたときに誰もが経験するであろう放心状態になってしばし立ちつくした。

しかしこの得体の知れないものと同じ部屋にいるという嫌悪感から我に返り、とっさに窓を開け、Kに向かって叫んだ。

「おい、手伝え! こいつを窓から捨てるんだ!」

私とKは力を合わせ、たった一センチの黒玉をなんとか持ち上げたがそれも一瞬のこと。とても支えきれる重さではない。黒玉は私たちの手から離れた。

「あっ!」

思わず飛び退いた私たちの間の床を、鈍い音を立てながら黒玉は弾丸のように貫通していった。

破壊された床から下を覗き込むと、この部屋はアパートの1階なのでむき出しの地面が見えた。その地面には黒玉がめり込んでいったような小さな穴が開いていた。

私とKは無言で顔を見合わせた後、どちらからともなく、わー、と叫びながら部屋を飛び出した。とにかくこの場所から逃げた方が良さそうだ。なるべく遠くに。

私の予想が正しいとすると、もう黒玉の重さは想像を絶するものであろう。そしてもしこのまま重くなっていったとすると……正確な時間は分からないが、やがて地球より重くなるに違いない。

そうなったらどうなるか。黒玉が地球に落ちるのではなく、地球が黒玉に落ちることになるのだ。

いや、地球だけでなく、月も、太陽も、太陽系も、銀河系も、この宇宙全てが黒玉に落ちることになるだろう……。あれは黒い黒玉ではなく、黒い穴だったのだ。

地面がぐらっとした。地面全体が内側に引っ張られるように変形を始めたようだ。もし未来というものがあったなら、私の名前は永遠に語り継がれただろうに。

いやKの名前もついでに語り継がれただろうに。ああ残念なことだ、おまえもそう思うだろ、と並走していたKに聞いたのだが当のKは

「マジかよ、おい」

そう言い残して地面に吸い込まれていくところだった。