蒼天の秋空に根本大塔の朱と白が映えて美しい。中に入って、大日如来像を見たが、灰になった僕に再び火がおこることはなかった。金剛峯寺の石庭は、人気のラーメン店かと思う程、行列ができている。

龍がとぐろを巻いているように見えるから、蟠龍庭ばんりゅうていと言われているそうだ。抽象的な表現法だから、見る人によって何にでも見えてしまうのだろうけど。僕には、お爺さんの浮き出た背骨にも見えた。

そろそろ、時間も迫ってきたので、バス停でバスを待つことに。目の前の寺院の門前の楓は、一割が燃えるように紅葉している。タクシーの運転手が言っていた。

高野山は、桜は無いが、紅葉が美しいと。ベストな季節は十一月だな。山の日暮れは早い。空を見上げ、視線を下に移していく。淡から濃へと紫色のグラデーションに染められた空に、稜線がシルエットとなって浮かんでいる。

ひんやりと湿気を含んだ風が、夕闇の迫っていることを知らせる。冷え込んできた。もう一枚、上着を着てくるべきだった。

ベンチで夫婦肩を寄せ合い、震えながら再訪を誓った。