二〇一九年十二月 秘湯への憧れ

う~ん、本物の秘湯を求めれば、そもそもが所在を掴めないとの問題に突き当たる。

秘湯は、事前に計画して行けるものではなく、偶然の巡り合わせという恩恵に浴するしかないようだ。

さて、どうすると電車の窓外に目を向ける。くたびれ果てた中年男と目が合う。自分だ。認めたくないが自分だ。日が落ちて外が暗くなったために車窓が鏡面となり自分が映っている。

普段、僕が自覚している以上にくたびれている自分を見てさすがに愕然とした。五十代も後半になり、体のあちらこちらに不具合が生じてきた。

特に左膝が、しくしく痛むのには閉口している。僕が行くべき喫緊の温泉は、経年劣化した肉体に効く温泉だ。そんなに都合の良い温泉があるのか。あるのだ。しかも隣県の山口県に。

温泉学者として活動されている札幌国際大学教授・松田忠徳氏が全国平成温泉番付で、別府の鉄輪温泉と並んで西の横綱に認定した俵山温泉だ。

しかも、温泉利用の効果が充分期待され、かつ、健全な保養地として活用されているとして温泉法に基づき環境大臣から「国民保養温泉地」に指定されているのである。国のお墨付きもあるのだ。

湯治場としての俵山温泉の名前は知っていたが、周囲にこれといった観光施設もなく地味なイメージしか持っていなかった。軽んじていた。歯牙にもかけていなかった。その俵山温泉が堂々西の横綱を張っているのだ。

己の不明を恥じつつ、俵山温泉のホームページを刮目して読む。ホームページに曰く、俵山温泉は還元力が強く、抗酸化作用がある。具体的にどういうことなのか。

ホームページは、その内容を分かり易く、僕たちに説いてくれる。以下、要約する。

人の老化は酸化により引き起こされる。酸化された状態を元に戻す反応を還元といい、一般に抗酸化作用と呼ばれている。俵山温泉は、調査により極めて高い還元力をもつことが判明した。

酸化還元反応を測定するのが、酸化還元電位(ORP)で単位はmV(ミリボルト)である。数値が高ければ、酸化力が強く、低ければ還元力が強いことになる。

俵山温泉のORPは、マイナス百からマイナス二百mVを示す。源泉かけ流しの温泉ではプラス五百からプラス百mVが多いのに比べると、俵山温泉の還元力が極めて高いことが分かる。

俵山温泉の類い稀な還元力の源は何か。それは、湯に溶け込んでいる〇・四〇ppmもの極めて高い濃度の水素である。