第二章 抱きしめたい

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自然と流れに溶け込んで行けた。大空を見上げると僕達二人を後押しするように、うろこ雲も綺麗に整列していた。

音楽が流れダンスが始まった。暫くして、何人目かに山岸とペアになった。手をつなぎ挨拶をして肩に手を回し進んだ。ダンスの音楽が、後押しをしてくれた。

「山岸さん久振りですね」

「滝沢君も、お元気でしたか久し振りですね」

「山岸さん三年は同じクラスにはならなかったね、僕は期待をしていたよ」

「私も、もしかしたらと期待をしていました」

実際には三年間、同クラスにはなることは無いのだが。

「あの噂の数日後、友達から貴方と華岡さんの事を聞いて知ったの。だから私はただ待っていようと決めたの」

「僕も本当は連絡したかった」

「あなたの帽子は覚えていますか」

山岸は前を向いたまま手を強く握った。

「もちろんだよ、僕のお気に入りだった」

「滝沢君、私ね、あの帽子を自分の部屋で被って貴方を感じているの」

それを聞いた鉄平は全身に電気が走った様な衝撃を受けた。そこでペアがチェンジになり、パートナーが変わる時、山岸がなかなか手を離さなかった。それは映画などのシーンで娘が無理やり親から引き裂かれ、どこかに連れていかれるようだった。

輪の前方を、見るとあと何人か先に華岡朋子が見えた。彼女とペアになり気持ちと体に触れることが出来る。皆と違う感触で手を握る事が出来る。胸の高まりが激しくなった。

その時、突然に音楽が止まった。校舎の壁に備え付けられている、大きなスピーカーから女子の声で優しく。

「皆さん、ただいまテープをセットし直しております。そのままで少し待っていてください、すぐに再開いたします」

皆その場で立ったまま再開を待った。

待って居る時間は長く感じた。それぞれどんなことを思って待っているのだろう。鉄平が少し離れている華岡を見た。

二人は目が合った。こちらを見ていたその瞳の奥に嫉妬が渦巻いていると感じた。

きっと山岸とペアが変わる時、最後まで手を離さなかったのを見たのだろう。男女の気持ちは、誰かを好きになると全身で感じるのかもしれない。山岸の行動はほかの生徒は気が付かなくても華岡の目はごまかせなかった。

鉄平は急に、自分でもわからない照れくさい気持ちが湧き上がって来た。華岡と、二人だけの夢の世界が近づいて来ていたのに。手には汗がにじんでいる。期待している気持ちと体は反対に行動した。何が何だかわからない気持ちになった。

突然ダンスの輪から抜け出し一人で教室にむかって走りだした。校舎の入り口で、小走りで走ってきた一人の女生徒とすれ違った。彼女は僕の手にタッチをしてグランドに走って行った。

あれ誰だろう。しばらくするとグランドの方から大きな笑い声が聞こえて来た。後で聞いた話では、その女性徒は同じクラスの男子の池内で、ふざけて女性のかつらをかぶって女の子の輪の中に入って行ったらしい。

鉄平はその笑いとは関係なく青春の切ない気持ちでいっぱいだった。山岸も不思議そうな表情で鉄平の後ろ姿を見ていたのだろう。そして切ない華岡の気持ちが、弓矢の様に飛んできた。

全部受け止めたがダンスの輪には、戻ることは出来なかった。甘酸っぱい感情が体の全てからあふれ出た。

再び、何事も無かった様に音楽が聞こえて来た。皆が大笑いをしていたグランドの雰囲気は、どこかに去って行きダンスが再開したのだ。大きな後悔が押し寄せてきた。矛盾した行動で過ごす青春の日々だ。

森山は、そのままダンスに興じていた。彼の話によると。鉄平が抜けた後すぐに華岡もダンスの輪から抜けて、教室に戻って行ったらしい。その話を聞いて、本当に胸が熱くなった。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『爽快隔世遺伝』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。