第二章 抱きしめたい

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この時期は日が暮れるのが早い。今の季節は誰も来てなくて閑散としていた。暗くならないうちに急いでテントを張った。

次にかまどをつくり夕食の準備をした。そういう理由で今晩の夕食はカレーから焼き肉に三段階は格上げされた。

大川がなれた手つきで、大きな網の上にいっぱいの肉を乗せて次々と焼いてくれた。油が解けて煙がもうもうと匂いと合体しながら僕達を包んだ。

「大川君のお父さん、お母さん有難う」

森山が叫んだ。

飯盒で炊いたご飯を肉と一緒に腹いっぱい食べた。いつの間にか太陽が沈み、辺りは暗くなっていた。

山男の大川が設置してくれた、カンテラの光が幸せな若者の横顔を照らしていた。

大川が突然「山男の歌」を大きな声で歌い始めた。僕達も一緒に大声で歌った。

「娘さんよく聞けよ~山男にゃ惚れる~なよ」

何か清々しい青春を感じた。

食事の後、かまどの残り火を四人で囲み中学生活の思い出話や高校に行ってから、そして将来の夢を長い時間話をした。

ときたま空を見上げた。山奥なので空気が特別に澄んでいた。本当にきれいな星空が見えた。夜も更けてきた頃、先に森山と村上がテントに潜りこんだ。

大川はさすがに、商売人の家に育った息子だ。焼き肉の後始末をしだした。鉄平は手伝いながら、かまどの残り火に枝をくべて大川と話をした。

「君は高校を卒業したら大学へ行くの?」

「まだはっきりとは決めてないけど、でも出来れば早く商売を覚えて両親を楽にしたいと思っている」

真剣な表情で話した。

「君はすごいね、尊敬するよ、僕なんかそんな事を考えたことも無いよ」

「僕はね、子供の頃から両親の働く姿を見てきた。休みもなしに僕達の為に商売を頑張ってくれた。僕が山登りに行って気楽にしていても文句ひとつ言わなかった」

「本当に優しい両親だね」

大川は横に座って昔の事だがと話をした。

「母親が自分の知り合いが肉を買いに来た時に百グラムほどおまけをした。それを黙って見ていた父親が、その日の夜に、我が家は肉という商品を売って生活をしているのだ。お前が友達におまけをした分は、我が家の生活費だ」

それから母親はそんなことは絶対にしなくなった。キャンプに行く事を知っていた父親が母親に何人だと聞いて、奥の冷蔵庫から焼肉を母親に黙って渡した。出かける僕に、母親が皆で食べなさいと言って持たせてくれた。

「お前の親父は本当にかっこいいね」

「うん……。だから早く仕事を覚えて、そして出来れば早く結婚して嫁さんと二人で店を切り盛りしたいと考えている」

大川は、なぜかしばらくじっと上を向いて星空を見ていた。そして、僕の方を見ないで両親には、たまには、二人で旅行でも行って来いと言いたいのだと話した。

それを聞いて、僕は何か胸に熱いものを感じた。大川の瞳に何かひかる星の綺麗な輝きを見た。

僕は感動で魂がふるえた。 本当にふるえた。

テントから二人の楽しそうな笑い声が聞こえた。これをきっかけに、僕達もテントに潜りこんだ。そして四人で女の子の話をした。

一番楽しい青春の時間だ。僕達は、華岡のお母さんがくれたドーナッツを食べた。鉄平はあえて、華岡から貰ったと皆には言わなかった。

大川の両親の話と、焼き肉で胸とお腹がいっぱいになっていた。楽しい話を最後に誰となく眠りについた。

翌朝は遅くまで目が覚めなかった。やっぱり、山男の大川が一番に起きてインスタントラーメンをつくってくれた。

「みんな起きろ、朝飯が出来たぞ」

飯盒をスプーンでカンカンと叩いた。

「おはよう大川君」

朝だ。皆がようやく目覚めた。

新鮮な山の空気に混ざった、ラーメンのおいしそうな香りがした。

「おはよう……キャプテン」

こうして鉄平達の楽しい中学生最後のキャンプを終えた。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『爽快隔世遺伝』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。