第二章 抱きしめたい

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青春の時間は自覚のない早さで過ぎ中学生最後の年を迎えた。クラス替えで、小学校時代に仲の良かった、森山誠と同じクラスになった。

「おい滝沢、久しぶりだな、元気か」

森山は小学校の時と同じ、親しみの笑顔で話しかけてきた。

「お前こそどうしていた、お前と俺は親友だぞ」

おどけて言った。

「親友に久しぶりとは変だろ」

「それも、そうだな」

二人は心の底から笑った。

でも現実は、いよいよ高校受験を迎える時期だ。そのためだろう。クラス全体の空気が、少し変わった様だ。ある日の昼休みに、森山と机を向かい合わせにして座り小学校の思い出話をしていた。

「滝沢、小学校の時よく一緒に遊んでいて東京に行った、上田武志を覚えている?」

「もちろん、よく三人で探偵ごっこをしたね、あいつ東京の中学校で元気にしているかな」

「うん、上田は今でも時々僕の友達に連絡をしてきて小学校のクラスの仲間の事、特に華岡朋子の事を聞いているらしい」

「それは本当?」

「先日も、僕達や華岡が何処の高校や大学を目指しているのか聞いてきたと言っていた」

「そうなの。何で、だろうね」

「そう言えば、確か小学校六年の時に華岡の事が好きだと皆に言っていたよね」

「でもそれは小学校の時の話だよね」

鉄平はなぜか感情が昂った。

「あいつは今でも華岡の事が好きなんだろうか」

森山は、納得いかないようだ。

「上田はただ懐かしいだけだと思うよ」

鉄平は、出来るだけ冷静を装った。

「うん、そうかもしれない」

森山は小学校六年の放課後、上田を鉄平達四人が教室に呼んで華岡朋子の件で話をした事は知らない。

この話は鉄平には、当然思い当たる節があったが、森山には何も言わなかった。夕日が校舎に映える季節になり体育祭が開催された。例年のことだが、これと言った変化もなく午前中のプログラムが終了した。

でも、午前中の最後に行われた、女子の百メートル決勝は、小学校で同じクラスだった河北南海子が大差で優勝した。自分とは何も関係はないがやっぱりすごいと感動した。

昼の休憩時間になり皆それぞれの教室に戻り昼食を食べ終えた。校内放送の木琴の音が、ポンポンポーンと鳴り昼休みの生徒会案内が流れた。

「皆さん、昼の休憩時間のフォークダンスが始まります。特に三年生の皆さん、最後の思い出になるようにぜひ参加してください」

それを聞いた森山が、廊下の窓枠に両手を乗せてグランドを眺めながらつぶやいた。

「俺たちも参加しようか」

「えー冗談だろ」

「うん。だから」

にやにやしながらグランドを見ていた森山がいた。

「森山、フォークダンスをしたことあるの?」

「無いけど、みんなと同じ事をやれば出来るよ」

「僕はやめておくよ」

「そんなことを言うなよ」

二人とも、そもそも、今まで一度も参加したことは無かった。

ましてや、女子と手をつないだことは小学校以来無い。

「鉄平、行くぞ」

「え、本当に行くの?」

「放送で言っていただろう、中学生活の最後の思い出だよ」

本当は鉄平も、少しは参加したい気持ちもあった。

「そうか中学最後の思い出か仕方がない。付き合ってやるよ」

結局、森山に渋々付き合わされたことを口実に参加した。森山も、照れくさい気持ちをごまかす様に、鉄平の腕を引っ張って歩き出した。グランドでは、もうダンスが始まろうとしていた。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『爽快隔世遺伝』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。