第二章 抱きしめたい

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女子には、交際している彼氏がいたのだ。当然、大喧嘩になって頼んだ友達を連れて、その彼氏の家まで行って、説明をしてやっと誤解を解いた。そんなこともあり内田は、こんな方法を取ったのだ。偶然の積み重ねが思わぬ方向へ動くことがあるからだ。

次の日の朝一番に内田にお礼を言った。まるで自分の事の様にはにかむと顔を鉄平に近づけて口ずさんだ。

「小さい秋見つけた。小さい愛も見つけた」

「うん、有難う大切に持って帰ったよ」

やっぱり周りの目が気になる中学生だ。

そして、高校受験も無事終わり、合格発表まで学校も今週は休みで時間があった。鉄平はクラスの仲間四人で、近くの北村山へ一泊のキャンプに行くことにした。僕と森山そして山登りが好きな大川と地学部の村上を誘った。

水曜日、桜山市駅のバスターミナルに午後一時に集合だ。天気は素晴らしい冬晴れだった。鉄平は、駅に出入りする群れ動く人びとを避けながら、テントが入っている大きなリュクサックを担いで、待ち合わせの場所に向かった。

「滝沢君。滝沢君」声のする方を振り返って立ち止まって見た。

「あ、華岡さん、こんにちは」

「こんな大きな荷物を持ってどこへ行くの?」リュックを見ながら尋ねた。

「森山達と北村山にキャンプをしに行く」

少し離れたところに、お母さんと妹さんが立ち止まり待っていた。

「少し待っていてね」

何か話をしてから三人でこちらに歩いて来た。

「紹介します。母と妹です」

鉄平はお母さん達に挨拶をした。

「初めまして滝沢鉄平です」

「朋子の母です」

「妹の由美です」

たったこれだけの会話だが嬉しかった。

「それじゃあ失礼します」

頭を下げて別れた。

しばらく歩いた所で、又後ろから声がした。

「滝沢さん、ちょっと待ってください」

妹の由美さんが追いかけてきた。

「これを皆で食べて下さいと。母からです」ドーナツが入った箱を差し出した。

きっと家に帰って、みんなで食べようと買った物だろう。

「有難う。お母さんによろしく」

少し離れた所のお母さんと華岡の方を見てお礼のお辞儀をした。

「失礼します」

由美さんは、ぺこりと頭を下げて小走りでお母さん達の所へ戻って行った。由美さんは朋子とはタイプが違った。ボーイッシュな髪型でスリムな感じだ。

しばらく帰って行く親子三人の後ろ姿を眺めていた。

「うん。三人ともそろって美人だな」

一人ごとを言った。

そして、約束の集合時間に全員が集合した。予定では、四人が集合してから近くのスーパーで今日の夕食のカレーの材料を買う予定だった。

「それじゃあ買い物に行こうか」

森山が言った。

「買い物はしなくていいよ」

大川が嬉しそうに言った。鉄平は、意味が分からなかった。

「どうして、何を食べるの?」

「皆喜べ、両親が皆で食べなさいと焼き肉をたくさん持たせてくれた」

そうだ大川の家は肉屋さんだ。膨らんだリュックサックを、ぽんぽんと叩いた。

「やったー」

森山が駅前にもかかわらず大きな声で、叫んだので通行人が僕達を見て笑った。

「よし出発だ」

大川が元気よく言った。

バスで田舎道を四十分ほど乗り、あとは歩いて一時間ほどでキャンプ地に午後三時前には着いた。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『爽快隔世遺伝』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。