労働争議解決の成功体験

【背景】

2010年当時のインドの基本的な労働市場の概要は次のとおりです。

2005年のデータで、高校・専門学校の新卒者1300万人で就職率25%、学士・修士の新卒者250万人で就職率46%。高・専卒の人たちは、直接労働職に就くことが多く、会社に不満があっても転職できないという不満を持っていました。これが潜在的な労働争議の要因の一つです。これに共産主義外部組合が絡んでくると、話がややこしくなるのです。

2010年当時の外部組合の浸透度を見ると、調査20社中、独自組合を持っていたのは2社だけで、他はほとんどが外部組合に侵入されていました。

【発端】

当時の当社は、例外中の例外ともいうべき無組合であり、規模の大きい日系企業であったため、外部団体から狙われていました。それでも設立以来、労務上の仕組みの徹底、採用方針の順守、経営者と人事の強い信頼関係などがあって持ちこたえていたのです。

例えば、当時のAITUCは、グルダス・ダスグプタ氏をリーダとするインド全国規模の活動体でした。ハリヤナ州グルガオンとマネサールが彼らの活動重点地域で、共産主義者の専門活動員を配置していました。

平時から州政府と良好な関係を築き、いざという時に備えることは重要で、当社は常に労務局・警察・地元行政と連絡を密にしていました。しかし共産主義外部組合等が、そうした遵法企業にも触手を伸ばしてくるのは、その活動自体が政治的、資金的な拡大を目的とするからなのです。

【平時からの準備】

平時であっても、次のような準備を欠かさないことが重要です。

①信頼できる労働弁護士を雇う。労働関係法を理解し、訴訟を意識した準備。弁護士のコネクションも活用。

②労働争議が起きても組合側に迎合しない人材を派遣できる派遣業者(Strong Contractor)の準備。彼らは組合・争議に関係なく必要な臨時労働力を提供できます(200~300人、いくらでも)。これらの業者は、地方行政・労働局と緊密な関係を持っている。

③フォーマル、インフォーマルのコミュニケーションの維持。マネジメントメンバーに定時的状況連絡。関係者から人事へ速やかに情報が行く体制。地方行政・労働部のトップとの良好な関係。役所(労務局)との定期的な情報交換。

④近辺の村の人々との良好な関係。労働争議等いざの際に、サポートしてもらうための布石。