【非常事態体制を敷く】

あるとき、当社従業員に共産主義組合の手に落ちた者がいる、という情報を入手しました。そして即座に、非常事態の体制と新たな決意をもちました。

労働争議が起きそうなときの3つの決意は、①生産と納入は止めない、②安全確保、③ノーワーク、ノーペイの原則の徹底、です。当社は、全マネージャーをアドミニチームと工場運営チームに分け、労務局と話し、12時間勤務・2交代制で警戒に当たりました。

事態を好転させる戦術としては、労働関連法の立法趣旨に基づいて、社内の組合活動者との会話を継続することです。アドミニチームと工場運営チームの役割は、次のとおりです。経営者・管理者が全員一丸となって取り組むことが大事です。

アドミニチーム=契約社員確保、法的措置、安全確保、顧客・政府関係者・インド日本商工会(JCCII)・大使館との情報交換、および生産活動の間接支援。

工場運営チームー契約社員への教育、在庫積み増し、生産・納期の確保、工場内監視活動、アドミニチームへの異常連絡。

【ストライキ直前の準備】

有効な対策として、その旨を掲示しての監視カメラによる証拠撮影、法律に基づく携帯電話の電波妨害機の設置。また、つい忘れがちなのが、ストが起きた時には、インド日本商工会(JCCII)経由で大使館に邦人保護要請を出すことです。詳しく並べると、次のとおりです。

①警察に保護を要請。従業員と生産設備の安全確保。

②法律に基づく掲示をしたうえで監視カメラでの証拠撮影。外部組合支援者の活動を監視。重要設備の稼動状況監視。

③個人の安全確保、警備員の追加。不測の事態に備える、突発事項への対応。

④食事・宿泊の手配。非常事態が起こった場合のため、社内で宿泊できるように着替え他の準備。日常用品の備蓄。

⑤医者、薬の確保。生産を続けるための従業員の健康確保。

⑥携帯電波妨害装置を電波法に基づき準備。外部組合活動者が社内にいる従業員と通話できなくすることで、妨害活動を防止。

⑦駐車場所の変更。ストメンバーによる、駐車中の納入用車の破壊予防。

⑧政府関係者とのコミュニケーション。州長官・労働局・警察、および日本大使館(JCCII経由)。ストが起きたら大使館に邦人保護を要請(JCCII経由)。

こうした万全の準備により、当社では労働争議でストはあったものの、お客様への納入不良や納入遅延を起こしませんでした。日頃の準備が、突発事項の被害を最小にとどめたのです。

外部組合の扇動に乗った従業員は、結局は会社側一致団結により、外部組合活動家と共に追い出されました。

【対応と事態の流れ】

2009年12月5日…組合結成の動きの情報を入手。すぐに古株の従業員との意見交換を実施。

2009年12月7日…ハリアナ州労務局から共産主義組合AITUCが介入した組合結成の動きの情報入手。

2009年12月〜2010年2月…顧客、労務局に対応を継続報告。共産主義組合発起人との対話を開始。

2010年2月17日…反就業規則的なサボタージュ等の発生により、労務局と協議し36名を停職処分。その日から一部従業員が外に出てストを開始。同日共産主義組合が介入した組合登録申請は否認された。

2010年3月19日…労務局の仲介で、停職者を13名に減らし仲裁完了。

2010年4月1日…停職処分の13名を除き、外部教育機関による意識教育を完了させ、全員復職完了。現在当社には全員参加の社内組合があるのみ。

【学んだこと】

この労働争議では、以下のことを学びました。そして、当たり前を当たり前にできるのが実力だということなのです。

①組合活動は、従業員に保証されている憲法の基本的権利であると再認識。

②不満を吸い上げる仕組みの整備。吸い上げた不満の記録。吸い上げた不満のフィードバックと監督者への教育的指導。

③給与の正当性の説明責任のため、他社ベンチマークを継続。

④対話の重視。合理性のない要求にも理論・対話で対抗する。

⑤情報収集。外部団体活動に目を光らせる。情報収集にたけた従業員の発掘。

⑥労務問題防止のために、継続した人事施策への取り組み。  

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『インドでビジネスを成功させるために知っておくべきこと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。