意外な感触に驚いて、私は反射的に手を引っ込めた。見た目は瑞々しいのに、この硬さは一体なんだ。

花の茎には鳥の羽の形をした細い葉が生えていて、それにもさわってみたが、やはり水分が何もなく、おまけに妙に分厚いのだった。

変わった花もあるもんだ、と思いながらなにげなく隣に視線を移すと、もこもこした淡いペパーミントグリーンをした草の塊があった。細かな葉の表面に、不思議な光沢がある。子供の頭でもなでるように触れてみると、あまりの柔らかさにびっくりした。

気が済むまで感触を楽しんだ後、私は再び散歩に戻った。しばらく行くと、芝生の上に、割烹着を着た老婆を見つけた。日光浴でもしているのか、伸び伸びと足を投げだして座っている。芝生の緑に白い割烹着がよく映えて、ハイジを彷彿とさせた。

目が合い、老婆が笑った。なんという笑顔。私は思わず足を止めた。彼女もわずかに腰を浮かすと、居住まいを正した。

「あら、こんにちは」

張りのある若々しい声で彼女が言った。私は慌てて記憶をさらった。断じて知り合いではないし、過去に彼女に会った覚えもない。こんにちは、だけならともかく、あら、こんにちは、とはどういうことだ?

「こんにちは」

とりあえず挨拶を返した。よっこらせ、と老婆は腰を上げると、お尻を払った。そしてあっというまに近付いてきて、私の目の前に立った。ひどく小柄である。

「植物が好きなの?」

彼女は親しげに目を細めて私を見あげた。どうやら、さっき私が花や草をさわっていたのを見ていたらしい。

「はい、割と好きなほうです」

彼女の何かが私を引きとめていた。それが何か分からず、じれったく思う。

「ここにはいろんな植物があるわよ。趣味で植えている人がいるの。あたしはそういうの全然興味ないけど」

彼女は肩をすくめた後、きっぱりとした口調で続けた。

「あたしは一つのものしか興味がないの」

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『空虚成分』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。