ひとり

いつ運ばれたのか、テーブルの上にはオレンジジュースが置かれていた。

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口に含むと、一筋の苦みを残してぼくの喉を落ちていった。ひとりの人間を傷つけてしまった自分。にもかかわらず、その人に対して何の償いもできない無力な自分。

そんな自分に残されているのは、そんな自分をせめて人としてあるべきものに変えるということなのに、それさえいまのぼくには高い壁を乗り越えなければならない難事のように思えるのだ。

いつまでつづくかわからない。どこまで行けば終わりになるのか定かでない。そもそも終わりなどあるのだろうか。

見上げると、先ほどまで軒にくっついていた雲のかたまりはいまは軒を離れていた。貼り付いているものだとばかり思い込んでいた雲は、目には感じ取れぬくらいの速度ながら上空を流れていたのだ。

あの雲と同じようにこの状況もいつかは動くときが来るのだろうか。それとも、気づかないだけで、すでに動きはじめているのだろうか。

わからない。わからないが、いま、このときだけは、めまいとも漂泊ともつかぬあいまいさのなかに自分の意識をたゆたわせておきたかった。

ノートは白いままだった。ぼくはただ空を流れる雲を見ていた。