同じ職場で働く安西健吾との恋愛が二年間続いたが…

彼は二歳上だったがアメリカの大学を卒業して同じフロアの職場で書類をやり取りする関係にあったのですぐに親しく話をするようになった。背が高くいつもダークスーツをきちっと着こなしていたので、初対面の時からどこかのボンボンさんと思った。眉毛が太く精悍な顔立ちも美代子の好みだった。最初に食事に誘われた時、身のこなしや振る舞いがアメリカ人の紳士のようなレディファーストで少し気持ち悪く思ったぐらいだった。

お父様が銀行勤務で役員をしていると言っていた。

食事中もお母さんの話題になるとすぐ「ママが……」という表現でお母さん中心の家庭生活の様子が見て取れた。

それでも何度か食事やショッピングのデートを重ねる内、彼の純粋な世間慣れしていない、言い換えれば俗世界に染まっていない点に惹かれていった。

春が過ぎ夏が来て又寒い冬の季節を越しながら美代子の中でこの人でいいかな、という気持ちになり両親にもそれとなく彼のことを話した。

両親からは

「美代子自身納得すれば問題ないですよ、しっかり前を見つめてやっていきなさい」

と大人の対応をしなさいと言われた。

二人の間ではこのまま結婚に進むと考えていたが、彼が美代子とのことを母親に伝えていなかったことが、後で大事のどんでん返し事件に繋がった。