「すみません、福寿軒っていう、ラーメン屋知りませんか」。

訊ねてもみた。商店のおじさんも、通りすがりのおばさんも、首を横に振るばかりだった。いつの間にか、商店街の街灯も点きはじめた。地方都市の商店街の夜は早い。すでにシャッターを閉めている店もある。ぼくはほとんど諦めかけていた。

すると、赤い大きな紙が目に入った。

〝閉店長い間の御愛顧に感謝します。福寿軒店主〟

太々と墨書きされている。間違いなく、あのラーメン屋の福寿軒だ。どうして分からなかったのか。そして、どうしてみんなは知らないと言ったのか。

ぼくは力が抜けてしまう気持ちで、自転車を置くと露地に入った。しかしそこには、あの骨董屋はなかった。そこは古い建物が取り壊された跡であることがすぐに分かった。有刺鉄線の張られた狭い土地には「売地」と真新しい札が架けられていた。

ぼくは立ちつくしてその土地を見つめていた。通りの方から、スピードを上げた車の音と、ガシャンという金属音が聞こえた。びっくりして取って返すと、ぼくの自転車はひしゃげていた。

投げ出されたバッグがぺしゃんこに潰れていた。バッグの上を確実に轢いて行ったようだ。あわてて開けてみると、サムの顔も粉々に潰されて、茶色のスーツと金色の髪だけが辛うじて原型をとどめていた。

バッグの底に光るものが二つあった。それはサムの碧いガラスの目玉だった。

夜の月影に鈍く光り、バッグから路上に転げ落ちた。

第2作『人形』完

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。