村人たちは、ユヒトの顔を見て歓待ムードになった

翌々日、キャラバン隊は出発した。笹見平からは林、盛江、岩崎。イマイ村からはユヒト、スソノ、イニギ。暗いうちに柵を出た。鎌原集落は川を渡って台地を登り、浅間山を右前に見ながら南下したところにある、五〇名ほどの集落だった。

【人気記事】JALの機内で“ありがとう”という日本人はまずいない

一行が近づくと村人たちが出てきた。最初は警戒した様子だったが、ユヒトの顔を見て一転、歓待ムードになった。村人がわらわらと集まる。鎌原の長老が挨拶を述べる。きわめて友好的である。

ユヒトは笹見平の面々を紹介し、数日後に貨幣の説明を行うから来てくれるように伝えた。もちろん縄文の言葉である。林らにはちんぷんかんぷんだ。

「俺も言葉を覚えようかな」

盛江は鎌原の人々と会話するユヒトの横顔を見て言った。

「無理だよ」

林はいじわるな笑みを浮かべた。

「だって盛江君、外国人と恋愛したいとか言って英会話教室に通ったけど、一か月も続かなかったじゃないか。週一回のコースを三週で終わるなんて、文字通り三日坊主だったね」
「へんなことを思い出すな」

それを見ていたひとりの若い縄文女性が盛江にほほ笑みかけ、「ヘンナコトヲ、オモイダスナ」と、そっくり真似た。

「すごい! この人一回聴いて覚えちゃった」

林は目を丸くした。

「ユヒトもそうだけど、縄文の人は耳がいいんだね。ぼくらはテレビやオーディオに慣らされてるからダメなんだろう」

盛江は女性に向かって言った。

「言葉に興味があるのかい?」