女性はキョトンとした目で盛江を見上げた。大きな瞳が透き通り、盛江の顔を映し出している。

「そんならアンタ、笹見平に来なよ」

盛江は通じないのを分かっていて言った。

「俺がばっちり教えてやるぜ」
「ササミダイラ」

女性は繰り返した。

「そうだ。待ってるよ」

キャラバン隊は鎌原を皮切りに何か所か集落を巡った。行脚は二日、三日と続いた。

毎日天気が良く、足取りは軽い。岩崎は行く先々をマッピングしていたので、近隣の集落地図が出来上がっていった。

さて、いろんな集落を訪れると、愛想のいいところもあればそっけないところもある。どういうところであれ、林とユヒトは丁寧に交渉し、とりあえず訪れたところは全て「貨幣の説明会には人を送る」と返答をもらっていた。

「意外に好印象みたいだね」

林がそう言うと「違う。きっと自分のいないところで他の集落同士に連合を組まれるのを恐れてるんだ。参加することでそれを牽制しているのさ」ユヒトは冷静に分析している。

林は不安を覚えた。どんな時代にも、社会には強者と弱者がいて、弱者は常に怯えていなくてはならないのだ。

「ぼくたちも強くならないとね」

林は盛江を振り返ってそう言った。

「ああ、……うん」

盛江は気の抜けた返事をした。彼は鎌原以降、黙りっこくなっていた。

顔はぼーっとして、足取りも危なっかしい。もっとも、よく食べよく眠るので、誰も心配はしていない。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『異世界縄文タイムトラベル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。