留守中の惨事

強盗の一件から半月が経過した。

あの時の恐怖と屈辱は林の心をいつまでも沈ませた。同じ日本でも時代が違えば外国同然だということが分かった。

これから先、縄文人との関わり方に不安を覚えずにいられない。今後、笹見平はどうあるべきか。このまま無策でいるわけにはいかず、林は悩んだ。

なお、強盗の件は岩崎から口止めが敷かれた。

「貨幣を奪われたことを知られたら、笹見平の信頼も貨幣の信用も無くなる。柵の外には絶対に知らせるな」

むろんユヒトにもそうお願いした。盛江ら一部の人間から

「犯人を見つけて仕返しすべきだ」

という声が上がった。放っておいたらつけあがってまた強ゆ請すりに来るかもしれない。

その時は金どころか、食べ物や土地、人間まで奪われる恐れがある。

「武器を持つべきだ」

ユヒトは強く主張した。

「自分の身を守るのは自分しかいない。ぼくらも精一杯助けたいけど、毎日見張っているわけにはいかない」

もっともな意見だ。

さて、笹見平は、貨幣を開始してしばらくは、他集落が食料を売りに来るのを待ち、買い取って(貨幣を渡して)食をつないでいたが、春になり気候が穏やかになると、大学生を中心に複数のチームを編成し、笹見平の方から買い物に出掛けて行くようになった。

「いつも持ってきてもらって悪いから」というのが言い分だが、本音では防衛のため(内部を見せない)、周辺地域の情報を手に入れるためなど、いろいろと思惑があった。

買い物は主に男子の仕事だった。安全を考えて必ずチームで行くことにした。だが盛江だけは、みなが「あぶない」と注意するのに従わず、いつも一人で出掛けた。行先は鎌原で、ウズメが目的なのは明らかである。

何度注意してもなおらないので、いつしか盛江のみ例外になった。