主要な神経はでたらめに分布しているのではなく、走行の経路までも大体決まっているらしい。実際示してある辺りに凧糸のような2㎜ほどの径の神経が剖出された。ただ全くの糸そのもので無く、やや平べったいヒモのようだった。かなり丈夫で、少し引っ張ったくらいでは切れそうに無かった。

その大後頭神経は、枝分れした植物が種から地上へ出て、地面に倒れたように、後頭部の上方へ向かって三角形に分布していた。続いて小後頭神経が胸鎖乳突筋の後ろの縁に沿って上行するのを、耳の後ろの付け根辺りへまで確認してこの章を終わった。

更衣室で帰宅のため着替え、雑談しているうち、数日前に報道された、女子学生を何十カ所も刃物で刺して殺した、猟奇的殺人に話が及んだ。よっぽど恨んでいたのだろう、とか逆に凄く愛していたのではないかとか、解剖に興味があったのかも、とか言う意見が出た中で、印象的だったのは田上の言葉だった――殺人犯に反省を促すなら、殺した相手の解剖をさせて、自分の作った死因の傷を確認させるのが一番だと思う。