発達障がいは治療できる 診断、対処法、正しい治療を受けるために

“「発達障がい」は治療ができない難病ではありません。具体的な向き合い方、どうすれば症状は良くなるのかといった筋道はあります。早期発見・早期介入が求められるのは、治療が早ければ早いほど症状に改善がみられるからです。”医療現場の実情、最新の診断・治療法を専門の小児科医が解説していきます。

メリハリをつけて環境を変化させる

発達障がいにおける症状を悪化させる要因となるのが、生活環境の乱れです。外来にやってきても走り回ってばかりで椅子に座って診察もできなかったお子さんがいました。そのお子さんは1日中テレビを見たりゲームで遊んだりしているそうで、診療にもポータブルゲーム機を持ってきていました。ある日、親御さんにテレビのつけっ放しとゲームでの遊びを制限するよう話したところ、睡眠も整って、徐々に行動が落ち着いてきたそうです。外来を走り回らなくなり、椅子に座って診察できるようになりました。このように、生活環境を整えることによって発達障がいの症状を緩和するというケースも見受けられます。

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私は、こういうケースを「環境性のADHD」と呼んでいます。

何年か前、5月頃だったでしょうか。H君という年中の男の子が母親と祖母と3人でやってきました。情緒不安定で落ち着きがないところがあり、幼稚園の園長から私のクリニックを紹介されてきたそうです。H君には調子に乗りやすいところがあるため、母親はいつも叱って叩いてばかりであまり褒めていないと言います。

外来でのお子さんの行動がそれを証明してくれました。祖母には言い寄っていくのに対し、母親のもとへは寄りつかないのです。

日頃、母親に叩かれているための愛情遮断があるものと感じました。愛情遮断とは、主に母子関係の問題によって、お子さんが十分な愛情を感じられないまま育ってしまった結果、成長や発達の遅れが生じてしまった状態のことです。この母親自身も外来では表情が硬くマイペースなところがあり、自閉スペクトラム症の疑いがありました。

祖母の方が発達障がいに関しても知識があり、こちらの話も親身に聞いてくれたので、初回は祖母中心に発達障がいについて説明しました。

そして、ADHDの問診票をやってもらうと、意外にも母親が書いた問診の結果では多動型の9項目中1~2項目しか陽性がなく、治療の基準となる6項目以上には達していませんでした。

一方、幼稚園では、多動型の9項目中8~9項目が陽性で、治療基準に達しており、家庭と園で乖離(かいり)が見られました。

IQは、視覚で認知する動作性IQの方が言語性IQより15以上も高く、偏りが見られました。母親から遺伝しているのではないかと考えられる自閉スペクトラム症も、やはり併存していることがうかがえました。

幼稚園の担任はH君にどう対応していいのかわからなかったのか、彼が何をしようと放っていました。9月初めにそれをみかねた母親が、園長と担任に「いけないことをやったら黙って見逃さないで、園でもっとメリハリをつけてダメなものはダメと言って叱ってください」と注文をつけたそうです。これが功を奏し、H君は次第に落ち着くようになったのです。

薬を使わずに、「園での落ち着きがない」という一つの問題はこれであっさりと解決しました。

どのお子さんも厳しい担任よりは優しい担任の方が好きなものです。あまり厳しすぎる担任だと、発達障がいを抱えたお子さんは、担任への嫌悪感から学校に行くのを嫌がるようになったり、怒られてばかりいることによって自尊心を傷つけてしまったりする傾向が他のお子さんよりも強いので、注意が必要です。しかしあまり優しすぎて、やってはいけないことも見逃してしまう担任では、お子さんは足元を見てしまい、好き勝手に行動してしまいます。何も注意されないことでH君は、自己中心的な行動に走ってしまい、落ち着かなくなったと考えられます。優しくしながらも、ダメな時はダメとしっかりと叱るといった、「メリハリのある態度をとる」ことを家族も心がけてください。

ただし、叱った時に、どうしたら良かったのか指導してあげたり、次にできたら褒めてあげたりと、お子さんへのフォローを忘れないようにしましょう。

話をH君に戻します。もう一つ情緒不安定という問題がまだ残っています。