一度は終息したかに見えた医療事故調査制度問題であったが、2012年に再び議論が動き出す。その経緯を理解するために、厚生労働省の大綱案を今一度振り返る。

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四病協合意・日病協合意の内容

度重なる議論の結果、2013年(平成25年)1月23日、四病協合意が成立。「診療に関連した予期しない有害事象(死亡・重大事故)の調査のあり方」として発表された。

基本的構図は、日本医療法人協会原案に近いものであるが、院外の第三者機関である事故調査検証委員会(医師会・病院協会等による複数機関)から匿名化した上で、直接、再発防止のための医療事故情報収集等事業に情報提供するルートが追加された。

一方、事故調査検証委員会からの報告書は病院のみに返すこととし、患者・家族・遺族との窓口は病院に一本化された。院内事故調査委員会中心の合意である(図表1)。

[図表1]基本的な考え方(四病協・日病協合意に基づく概要図)

壮絶な論戦であったが、日本医療法人協会案を柱とした合意可能な範囲でのとりまとめとなった。同年2月22日には、日病協合意が成立。「診療に関連した予期しない死因究明制度の考え方」として発表された(図表2)。

写真を拡大 [図表2]診療に関連した予期しない死因究明制度の考え方〔平成25年2月22日、日病協〕

四病協合意と日病協合意には若干の相違点はあるが、基本的には、ほぼ同一内容である。

日病協合意で特筆すべきことは、「診療に関連した予期しない死亡」の定義に、「ただし、故意または悪意の場合は除外する。」の一文が追加されたことである。「故意の場合・悪意の場合」を除外することにより、殺人罪等の故意犯を医療事故調査制度の議論から明確に排除した。

日病協合意で「医療の内」と「医療の外」を明確に切り分けて、故意犯を医療事故調査制度問題から排除した意義は大きい。四病協合意・日病協合意は病院の80%の加盟団体の全員一致による合意であり、病院団体のコンセンサスは得られたといえよう。

一言、筆者が「故意の場合・悪意の場合」を切り離すことに固執した理由を記しておきたい。刑法第38条1項は故意処罰の原則を謳っている。また、同項但書に規定された過失は、故意の可能性と解釈されていることから、「故意の場合」「悪意の場合」を制度から除外することにより、刑事捜査を今回の制度から排除したかったからである。

さて、病院団体合意の主な部分を、日病協合意(図表3)を基に詳述する。日本医療法人協会案、四病協合意、日病協合意に基づく概要図は、図表1の如くである。

[図表3]基本的な考え方(日本医療法人協会原案)

まず、日本医療法人協会原案で述べた如く、「医療の内(医療安全・再発防止)」と「医療の外(紛争)」を切り分けたことである。

また、基本理念として、「WHOドラフトガイドライン」に準拠すべきことを明記した。「WHOドラフトガイドライン」は、「学習を目的とした報告制度」(医療安全の制度)と「説明責任を目的とした報告制度」(責任追及の制度)とを区分しており、一つの制度に二つの機能をもたせることは難しいと述べている。

「医療の内」(医療安全・再発防止)と「医療の外」(責任追及)を切り分ける考え方と基本的に同一である。

病院団体の合意は、責任追及を排除した、あくまでも「医療の内」に限定しての再発防止のためのシステム作りであり、医師法第21条の解釈を「外表異状」とすることを前提にしている。「医師法第21条は、その立法の精神に戻り、拡大解釈しないものとする。」と明記した。

※本記事は、2018年12月刊行の書籍『未来の医師を救う医療事故調査制度とは何か』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。