一度は終息したかに見えた医療事故調査制度問題であったが、2012年に再び議論が動き出す。その経緯を理解するために、厚生労働省の大綱案を今一度振り返る。

日本医療法人協会案と病院団体合意への経緯

2012年(平成24年)5月、筆者は日本医療法人協会医療安全調査部会長に就任することとなった。これにより筆者と顧問の井上清成弁護士は二人三脚で医療事故調査制度問題に本格参入することとなる。

同年7月、四病院団体協議会(以下、四病協という)に「医療安全対策委員会」、日本病院団体協議会(以下、日病協という)に「診療行為に関連した死因究明制度等に係るワーキンググループ」が設置され、予期しない診療関連死に関する検討が開始された。

筆者らは、「医療の外」(紛争)の最大の問題点である刑事事件化については、最大の課題は、刑法第211条(業務上過失致死傷罪)であり、医療という複雑系で侵襲性を伴う業務に、業務上過失致死傷罪が単純に適用されることを是正すべきであると主張していた。

しかしながら、現実論として、捜査の端緒となる医師法第21条(異状死体等の届出義務)の解決を放置したまま、再発防止という美名のみを旗印にした医療事故調査制度設置は、責任追及やひいては、医療者の人権の侵害につながりかねないと強い懸念を表明した。

病院団体合意のためには、再発防止のための議論が、紛争資料として使用されないことを担保する必要がある。再発防止のための合意の前提には、非懲罰性と機密の保持が必須であると主張した。

筆者らの主張が受け入れられ、この「医療の内」即ち「再発防止」と「医療の外」即ち「紛争」を明確に切り分けて、「医療の内」の問題としての最大公約数ということでコンセンサスを得ることとなった。日本医療法人協会原案を修正した案でコンセンサスが得られたのである。

「WHOドラフトガイドライン」の「学習システムとしての報告制度」の趣旨に沿ったものである。