くしゃみとルービックキューブ 5.

窓には薄い素材のカーテンが掛かっている。外から誰かに見られるのを防ぐためかもしれない。だがこの薄さでは、人影がぼんやりと映ってしまうだろう。単なる日よけかもしれない。

窓に近寄り、カーテンを少し開けて外を見てみようと思ったが、やめた。岳也は椅子に腰を下ろすとパソコンのスイッチを入れた。椅子をくるくると回しながらパソコンが立ちあがるのを待つ。これが終わったら何を食べようかな、と考える。時刻はそろそろ一時になるところだ。道理で腹が空いているわけだ。電子音がした。岳也は椅子を回すのを止めた。黒い画面に、四角で囲まれた文字が出ている。

メールをあける

それだけだった。五秒ほど、岳也はその文字を見ていた。じっと見ていれば、その簡潔極まりない言葉の裏に隠された真の意味が浮かびあがってくるとでもいうように。だがもちろんそんなことはなかった。何か指示を与えない限り、状態は永遠に変わらない。パソコンとはそういうものだ。

岳也はマウスを動かすと、その四角で囲まれた文字をクリックした。ポンと軽い音がして画面が変わった。

「え?」

彼は眉を寄せた。真っ白だったのだ。メールには何も書かれていなかった。添付ファイルがあるようだったので開けてみようとしたが、暗号でロックされていると分かる。差しだし人の名前もなく、件名もノンタイトル。アドレスも分からない。マウスをクリックしてもどこのキーを押しても、画面は動かなかった。閉じることさえできない。固まってしまったみたいだった。そういうふうにプログラムされているのかもしれない。