「ああ、あの方でしたか」

老人は眼鏡を外して、白いハンカチでレンズを拭いた。

「おじいさん、おじいさんはぼくのことを見ていませんでしたか?」

ぼくは思い切って訊ねた。

「いや、私は今、外から帰って来たばかりですよ」

老人はこの店の主人だとようやく分かった。主人はハンカチで口を押さえ、咳を一つすると、「もしかして、彼かもしれません」と言ってぼくをじっと見た。

「彼って……」
「彼ですよ」と低い声で主人は言った。
「あの、ぼく、そういう話は、ちょっと、いや、だいぶ苦手で……」

主人は、おもむろに人形のある棚の方に行くと、持っていたパイプで棚の上を指した。棚の上で男の子がこちらをじっと見ていた。

視線の主は、天井の深い暗闇からひょっこり舞い降りたかのように、そこに突然現れた。人形の少年は、金髪の柔らかな髪を七三に分けていた。

茶色で厚手の布のジャケット、黒くよく磨かれた革靴。そして主人と同じ真紅の蝶ネクタイをしている。

人形は、微笑しているわけではない。碧い眼や口元は、突き刺さるように冷たい。店内の照明は、店の真ん中に五十ワットの裸電球があるだけだった。

天井は棚に隠れて暗く、外からの光を取り込んでいるようでもない。しかしこの人形だけは静かに発光しているように、ぼんやりと明るい。