どうもアンドレはフェラーラに双子の娘がいた事実は知らないようだった。それにロイド出版とフェラーラとの濃密な関係は、アンドレの高い評価と強い思いれによって、彼が独占的に出版させたようだ。もしそれが事実だとすれば、このスキャンダルに関して、アンドレは部外者ということか?

宗像は今のところこれ以上深追いして聞き出すべき状況にはないと判断して丁寧に礼を述べた。

「お忙しいところ今日は本当にありがとうございました。おかげでご高説を承ることができました。また後日、お会いする機会があるかもしれません。どうぞお見知りおきください」
「いや何、たいしたことではありませんよ。エリザベスさんのたってのお願いであれば。私でお役に立てることなら、いつでも何なりとどうぞ」

話の間中、宗像はかなり緊張し、気も遣った。アンドレもロイドとの関係があるからだろう、あからさまにあしらうようなことはなかった。宗像は支払を済ませ、アンドレを見送った後ヒースローに向かった。

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『緋色を背景にする女の肖像』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。