泉が声をうわずらせ、
「誰かに呼ばれたにしろ、そうじゃないにしろ、私たちに何にも言わずに行ってしまうなんてあんまりだわ」

最後の方は言葉にならなかった。早坂は泉の肩に触れ、

「無事を祈りつつ、俺たちはここを守っていくしかない」

泉はたまらなくなり早坂の胸に顔をうずめて泣いた。

三人を失った笹見平の損失は大きい。リーダー林に工事監督の岩崎、紙幣デザインの岸谷がいなくなり、進行中のプランは全て中止。早急に新リーダーを選ばねばならなかったが、誰がいうとなく、早坂が仕切りはじめた。

笹見平の半数以上は早坂シンパだったので、ごく自然な流れで、特に目立った不満は起きなかった。ただ内心は分からず、一部の人間が心の中で煩悶(はんもん)を抱えていたのは確かである。

早坂は以前推し進めていた生産重視体制を再開した。だが今回は完全な鎖国はしなかった。この政策転換には、食糧問題もさることながら、泉をおもんばかったところがあった。

彼女はしばしば「最近ユヒトが来ない」と心配そうにしていた。事実、三人が行方不明になって以来、イマイ村からの訪問が途絶えている。

早坂は泉に「彼らも冬で忙しいのでは?」と慰めるような言葉を掛けたが、内心訝しく思った。
――おかしい。今までは三日に一回くらい来ていたのに。

沼田に尋ねると、彼はそっけなく「来てほしくない連中が来ないのだから、別に不満は無いでしょう」と答えた。沼田は早坂の心を見抜いていた。林・岩崎・岸谷がいなくなり、早坂は泉に近寄りやすくなった。

泉を狙っての対外政策のゆるみ――暗にそれを揶揄したつもりだった。だが、さすがの早坂も気付かなかった。