林・岩崎・岸谷が行方不明になってから1週間以上が経過したある日。
若者たちがサバイバル生活を送っている笹見平へ、久しぶりの来訪者がやってきた……。
 

「彼らは死んだ、と言えばいい」

数日後の昼下り。早坂が竪穴式住居の中にいると「イマイ村がきた」と触れがあった。ユヒトら縄文の若者たちが、以前同様、大袋にいっぱいの食料を詰めてやってきたという。

「晴夏」早坂は泉を下の名で呼んだ。「林に代わって彼らとの窓口をやってくれ。今日からきみが外務大臣だ」

泉は打ち沈んだ声で尋ねた。
「林君のことを聞かれたら、何て言えばいい?」
「死んだ、と言えばいい」
「死んだ?」泉は真っ青になった。早坂はハッとして
「いや、行方が分からなくなった、にしよう。狩りに出たきり帰って来ない、と。とにかく、あまり内情を知らさない方向で進めてくれ」

「一緒に探そうと言って来たらどうするの?」
「食料集めが忙しく一緒には探せないが、そっちで探したければ勝手に探してくれと――でも言えばいい」
「最低ね」
「歴史を変えないためだ。仕方が無い」

泉は一人、柵の入口に赴いた。柴でくくられた門のところにイマイ村の若者たらが立っている。ユヒトは泉の姿を認めると、仲間を待たせて一人で近づいて来た。

「やあ、イズミ。どうしていた? 食料を持ってきたよ」
「……何かヘン」
泉はユヒトをまじまじと見た。

「ヘン?」
「ヘンよ。私の知ってるユヒトなら、はじめに『オツカレサマ』と言うわ」
「だいぶゲンダイ語に詳しくなったからね」
「それに、いつもなら林君が出てくるはずなのに、私が出てくるのをおかしいと思わないの?」

ユヒトは驚いた。泉は人の心の揺れを見抜くのか。彼は考えていた段取りを諦めた。現代人から学んだ仕草――唇の前に人差し指を立ててシーッ――をやり、懐から小さな紙切れを取り出した。

泉は息を飲んだ。縄文人が現代の白い紙を持っているわけがない。彼女は紙を受け取って、手の中で開いた。

泉さんへ。
ぼく・岩崎・岸谷は生きている。
このことは、きみが信頼できる数人とだけ共有して、みんなには言わないで。
林より。