阪急電車の生みの親であり阪急東宝グループ(現在の阪急阪神東宝グループ)の創始者である、NHKでドラマ化された小林一三社長(1873-1957)が自社の事業を「われわれは鉄道会社でなく、沿線地域を発展させ、人々の生活を豊かにする会社である」と定義したことは有名です。

鉄道の沿線に、遊園地、宝塚歌劇、百貨店を作り、沿線を発展させることで、鉄道事業にも成功したわけです。他の鉄道会社もこの手法を模倣し、東急電鉄などもその成功例です。

逆に、アメリカの鉄道事業は輸送事業でなく、鉄道事業と定義したために、車産業や航空産業に敗北したわけです。こういったアメリカの鉄道事業の失敗をセオドア・レビット博士はマーケティング・マイオピア(近視眼)と批判しました。輸送を目的とせずに鉄道を目的とし、顧客中心でなく、製品中心に考えてしまったことが問題です。

医療においてもこのようなマーケティング・マイオピアに陥らないように注意しなければなりません。真に患者が求めているのは診療や延命ではなく、心身の健康や安心、そして幸福です。

マーケティング・マイオピアに陥らないためにも、これからの病院はトータルヘルスケアサービス業(total healthcare service:THS)と捉えて、以下の点を特に重視した戦略が必要となると考えています。

他の医療機関との同質化を避け差別化を行うこと、積極的に人材育成を行うこと、病院単独でのマーケティング戦略は困難なので、医療関連産業(製薬企業や医療機器メーカー)と連携して医療マーケティングを行うこと、社会的責任を経営に位置づけることなどです。