大学病院の経営戦略

それでは大学病院の経営戦略を実際にどのように行えばよいでしょうか。第一に徹底した一般病院との差別化ですが次の6つの具体的対策が挙げられます。

① 開発治験の遂行

近年は大学病院に限らず、一般病院でも実行力があり、症例数の多い診療科は開発治験を獲得しています。病院の収益向上、職員のモチベーション向上、患者満足度の向上、病院のブランド化に繫がります。

② 特定の診療領域への選択と集中

地域のニーズを分析して、競合病院が模倣できない診療領域を選択し、集中します。人口構造や、産業構造の変化に敏感であることが求められます。

③ 地域の医療機関との連携の活性化

地域のかかりつけ医や一般臨床医を顧客と捉え、密な連携を行います。大学病院の外来再診患者をかかりつけ医に逆紹介して、外来は初診患者あるいは治験症例、臨床研究の症例に特化します。投薬のみの患者を大学病院の外来で取り込んではいけません。

④ 徹底したブランディング戦略と多様性のマネジメント

医療者個人または診療科のブランド力増進に病院が投資します。またそのためには内部の人材の強みを見出し、多様な価値観を認め、評価することが必要です。ドラッカーは「外科医の成果を向上させる最善の道は、地域の医師の集まりで自らの仕事について語らせることである」と主張しています。

⑤ 行政や患者集団との結束を強める

行政や患者会などは、強固な情報収集能力と広告力を有しています。公益性を担保するためにも、それらの集団との結束が重要です。

⑥ アメニティの向上

本質的な医療サービスについては大学病院に対する患者の期待度はもともと高く、事前期待以上の医療サービスを提供することは困難です。一方、付帯サービスでのアメニティ向上などは、大学病院ではもともと患者の期待度は低いために顧客(患者)満足が得られやすい利点があります。

第二に教育における新たな価値創造を行うことです。ICT を利用した高度でイノベーティブな教育システムの確立です。また医学部の卒後教育にも力を注ぐべきです。大学院の医学部に経営学科を創設し、社会人を対象とした医療経営の教育講座の設置、医学博士や医学修士と同時にMBA が取得できるダブルディグリープログラムなどが魅力的です。

したがって、今後は他学部との連携が重視されます。歯学部、薬学部などの医療系学部のみでなく工学系、社会系学部と連携し、多様な人材育成を進めていくべきです。東北大学大学院のように医工学研究科の創設も新しい試みです。

第三に大学病院そのものがチャーミングであることが求められます。

地域の特性、歴史や沿革を含めて、自組織の強みをいかに他者に理解させるかという視点が必要です。自治体や地域の産業との結びつきも鍵となります。また魅力的であるためには職員が生き生きと明るく働くことが最も重要であり、これに関しては第7、8章で述べます。
 

※本記事は、2017年12月刊行の書籍『MBA的医療経営』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。