終わると、古参兵から「寝藁を出せ」と号令され、厩舎から寝藁を外に出して日干しをする。熊手はあるが、馬の糞と小便で堅くなった寝藁は重すぎて熊手は役に立たず、結局、湯気の立つような寝藁を両手で胸に抱え、五、六回往復して外に出し、広げることになる。

その後、厩舎内を清掃し、馬糧と干草を入れ、神風を厩舎に返してようやく早朝の日課が終わる。この馬の世話だけで約四十分を要する。

しかも杉井の場合、神風のおかげで他の初年兵に比べて苦労が多かった。杉井が自分は不運にも噛みつく馬が当たってしまった旨を大宮上等兵に告げた際、大宮は、「それは大変だな。しかし、噛む噛まないもさることながら、利発な馬に当たると苦労するぞ。初年兵だと思うと馬鹿にするからな」と言っていたが、神風はまさに利発な馬だった。

厩舎に入ろうとすれば、じゃまをするし、蹄を洗うため片方の脚を膝の上に乗せると、わざとそちらの脚に体重をかけてきた。馬の体重は並ではなく、杉井は膝から下がつぶれるのではないかと思った。

古参兵の場合、厩舎に入る際に声をかければ馬はどうぞと言わんばかりに道を開け、脚を洗う時も軽く手を当てれば馬はすぐに軽く脚を上げる。神風を何とか早く仕込まないといつまでもこの苦労から脱却できないと、杉井は強く認識した。