「お願いします。……それでいいね、美津」
「お父さん」
「お願いします」

手をついて孝太郎は頭を下げた。トメは大人にこんな態度をとられたことがなかったので、戸惑った。ましてや、普段なら口さえもきけない大店の旦那様だ。

「は、はい」
「それでいいね、美津。……じゃあ」

孝太郎はそう言って部屋から出ていった。トメはあまりにも突然すぎ、何をどう考えてよいか分からなかった。

「トメさん……本当によかった。これで父も味方よ」
「そんな、噓をつくなんて……お父さんに迷惑がかかる。それに、こんな夜に私なんかがいるなんて、おかしいって思ってるよ」

トメは立ち上がると、廊下まで孝太郎を追った。孝太郎は振り向くと、トメをじっと見つめた。

「旦那さん、そんなことしてもらって、私、私……申し訳ないです。でも……」
「トキさん、美津のことよろしく頼みますよ……実はあの子の病は重い。医者にも見離されています。もう一年の命もないかも知れない。トキさん……よろしく頼みますよ」

孝太郎は静かに言って、トメに深々と頭を下げた。

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。