「……そうだな、まぁ法に触れるスレスレってとこかな。たとえ罪を犯してても、滅多にばれることはないよ。根っからの悪人ってのは、たいがいそつがないものなんだ。まずつまらないヘマはしない。そいつはね、何が悪人かって自分のことしか考えてないんだよ。それはもう見事なまでに。

人間、大なり小なり自分のことばっか考えてるもんだが、そいつに比べたらかわいいもんさ。たとえばだよ。うっかり誰かを傷つけちゃったとする。するとそいつはどうするかっていうと、物凄く謝るんだ。普通の謝罪に輪をかけて謝る。

本心はそんなことこれっぽっちも思ってないけどな。あまりに謝るんでなんだか可哀相で、かえって被害者のように見えてくる。それは周りに対するアピールなんだ。被害者のように見えてくるのが、そいつの狙いなんだ。そいつは人を傷つけたことによって、かえって株を上げる」

「……なんかある意味、世渡り上手みたいに聞こえますけど」

「そうなんだよ」岳也はピッと人差し指を立てる。「世渡り上手で、たいがい世の中で成功してる奴は根っからの悪人だ。そう思っててまず間違いない。政治家なんて見てみろ。悪人どもの集まりだ。この世は根っからの悪人どもで牛耳られてるんだ。善人達はその下で小さくなってる。いつの時代でもそうだ」

「嫌ですね、なんかそれは」
「だろ? でも哀しいかな、それが実情なんだ」

はぁ、そうなんですかね、と洋一がため息をついたときだった。

──た、すけ……て

声だ。助けて? ルービックキューブをいじっていないのに聞こえてくるなんて珍しい。

「おい、どした?」
岳也が不思議そうに洋一の顔を覗き込む。

「……あ、いや。なんでもないです」

洋一は笑ってごまかした。助けてなんて言うなよ、と思う。SOSを送られても困るのだ。どこの誰だか分からないんだから。

──ひょっとして──洋一はふと考える。この声の主は、ドラム4のくしゃみの主に、ひどい目に遇わされてるんじゃないか?

一度そう考えると、なんだかもうそうとしか思えなくなってきた。たとえば、声の主は高い塔かなんかに閉じ込められていて、ドラム4の人物に毎日こき使われているんだ──って、それじゃあまるでファンタジーか……。

「おい、『宝石泥棒』を聴いてくれよ。こん中で俺、一番気に入ってるんだ」
「ああ、はい」

洋一は微笑む。その曲もやはり現代音楽っぽくて、洋一にはよく分からなかった。