3章 世界のパラダイム

ビフォアコロナ アフターコロナ

6 フォーキャストからバックキャストへ(資源制約・無社会から資源制約・前提社会へ)

フォーキャストとは制約条件を考えることなく未来を見つめることです。一方、バックキャストとは制約条件の上に未来を見つめることです。

工業化が未発達な段階では、地球の資源に制約があるなどと到底気づくことはできませんでした。大女優、吉永小百合さんの代表作に『キューポラのある街』(1962年)があります。ちょうど東京オリンピック直前で高度成長の只中にあり、工場の煙突からモクモクと立ち上がる黒い煙は、発展の象徴でもありました。

そのとき、まさか空が有限で空気が有限であるとは誰も気づきませんでした。しかし、東京オリンピックが終わり、高度成長がピークを迎えたころには、自然に異変が生じているのが誰の目にも明らかでした。

水俣病、第二水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくの四大公害病が連日報道されていました。登校途上の河川は真っ黒で悪臭を放ち、黒い川の中で、わずかに白い腹を見せた魚の死骸が浮かんでいました。登下校のときには憂鬱な気分になったことを覚えています。

さらに、大学生のときに、四日市を車で通り過ぎるときは窓を閉め、息を止めながら走り去らなければならないひどい状況が続きました。以後、日本は環境技術を磨き、やっときれいな空を回復することができました。

しかし、中国に近い、九州、四国、中国地方の大気の状況はよくありません。日本できれいな空やきれいな川が見られるとしても、中国や発展途上の国々の環境汚染は、私たちの子どもの頃の状況と全く同じなのです。