「ケガすんなよ」一言、言い残してDJブースを出た翔一は、今の山崎の様子を見て
『今回のクサもトップ・レベルみたいだな。クレームが、くるようなこともまずないな』そう思った。

翔一がこの街でクサの商売をするようになってから、かなりの時間が経過している。
取引した回数と、流した量はもう想像すらできない。
彼がDJになる前からマリファナの売買をすることはあった。
当時の彼は、まだ若かった。経験も足りなかった。
そのおかげで、取引相手にナメられて粗悪なマリファナを摑まされたこともある。

ブースのステップをおりて真っ直ぐ、彼女を待たせているカクテルカウンターへ歩いていく。
「おまたせ」そう言いながら、彼はとなりの椅子に腰を下ろした。

香子の前には1つ、グラスが置かれているが、グラスの形からしてそれが、アルコールじゃないことが解る。

「香子ちゃんはアルコール、あまり飲まないの?」翔一が訊くと

「うん、あまり飲まないの。だって、お酒って飲みすぎると、本人の意思に反して1日が早く終わってしまうことがあるでしょう? だから、あとはもう寝るだけっていう状態のときだけね。私が、お酒を飲むのは」香子は言った。

香子の言葉を聞いて、翔一は、明日がOFFだったということは『超ラッキーなタイミングだったね』と思った。

なぜなら、彼女は今夜まだまだ眠るつもりはないみたいだし、帰るつもりもないみたいだから。

「じゃあ、これから2人で踊りに行こうよ、俺の好きなお店に案内してあげるよ」