第一章 ほうりでわたる

母の内職と飲んべえおやじ

このころ母と文子おばさんは、沖縄で子供のころ覚えたパナマ帽の編み方を教える教室を始めました。近所の主婦だけでなく、遠くから通ってくる方もおられたようです。

帽子を編むのは難しく、売れる商品に仕上がるまでにはかなりの熟練を要したようですが、当時の内職としてはいい収入となったのではないかと思います。映画『007』シリーズのジェームズ・ボンドがパナマ帽をかぶっている姿を見たことがありますが、戦前、カンカン帽とともに愛用されたパナマ帽は、戦後はあまり普及しませんでした。

一方、父は酒びたりになり、毎晩仕事の帰りに酒屋に寄り、焼酎を飲んで帰ります。集金の帰りに酔っぱらって川の土手で寝そべっていて、近所の人が「あんたのお父さんが土手で寝ているよ」と知らせに来て、父をリヤカーに乗せて連れ帰ったこともありました。

年末になると、父が付けや掛けで飲んだ酒代の取り立てで、あちこちから集金の人が来ることもありました。大晦日の夜は、借金取りが来ないかと、びくびくしながら除夜の鐘を聞きました。それがない年は、母もほっと胸をなでおろして正月を迎えました。