2007年

フランス人と車

出張で時々会社の欧州統括本部があるドイツのフランクフルトへ行く。
フランスとの違いを感じるのが高速道路である。

ドイツのアウトバーンは欧州で唯一、スピード制限がなく、また乗用車から高速料金を取らない高速道路だそうだ。スピードマニアが多く、高馬力の車をこよなく愛するドイツ人らしく、片側四車線の一番中央寄りの追い越し車線をメルセデスやBMW、ポルシェが時速二百キロを越すスピードでビューンと走って行く。

私達が乗るタクシーもその追い越し車線を二百キロ超で走るが、周囲の車も速いのではそんなに速い感じはしない。ときどきスピードメーターを見て「おお! 二百キロか!」と思うくらいである。

ある時、ドイツに赴任している人の車に乗せてもらったが、その車はそんなに高馬力の車でなかったため、二百キロを越すとさすがにエンジン音が気になった。

彼によると、追い越し車線は二百キロ超で走るものという感覚を持って運転すれば決して怖いことはないという。

但し、夏のバカンスなどに他国のドライバーがアウトバーンを運転する季節には怖い思いをするらしい。なぜかというと彼らは百二十キロとか百三十キロでこの追い越し車線に突然入ってくるからだ。

二百キロとの相対速度では、八十キロで走っている車が止まっているものに突っ込むことと同様である。
あっという間に接近することになり、パニックブレーキを踏む事態になる。従って追突事故も結構あるということである。

ドイツは環境保護の意識が高い国として知られているが、こと車に関しては嗜好が優先するようだ。二百キロを超える走り方が環境によいわけはないのだから。

比較的中型・大型車が多いドイツと比べると、フランスは小型車が圧倒的に多く感じられる。日本で言えば日産マーチやトヨタヴィツ、ホンダフィットクラスだ。

フランスで最も売れている車はプジョー206、シトロエンC3やルノークリオである。
こうした小型車は狭い街中を走るのに適しているし、何よりあの道路の両側の縦列駐車をするのに楽である。

私はいつも一回で停められずに何度もやりなおしてしまう。後ろで待つ車がいるともう汗だくである。フランス人はこんなときでも決してクラクションなど鳴らさず、辛抱強く待ってくれるのだが。

ちなみに私の乗る車はルノー・メガーヌのワゴンだ。排気量は一八〇〇CCディーゼルエンジン。フランスの高速道路は百三十キロ制限なので全く問題なく走る。この一年一度も故障していないので、当たったと言えるだろう。

日本人赴任者仲間に言わせるとフランス車は故障が多く、まだドイツ車のほうがいいようだ。本当のことを言えばトヨタの車が品質面では最高だが、ヨーロッパまで来てトヨタに乗るのはなあ、高いしなあというのが彼らの正直な感想である。

フランス人はめったに車を洗わない。かつ少々へこんでいようが、傷がついていようが全く頓着しない。
取れかかったサイドミラーをガムテープで留めて運転している車も決して珍しくない。

その点、ドイツ人のほうがまだ車をきれいにして乗っているようだ。もちろんピカピカに磨いた車に乗るのは日本人が一番多いと思う。

従って、フランスには洗車場は少なく、ガソリンスタンドに洗車機はあるが利用者は決して多くない。まして日本のように洗車機で車を洗ったあと丁寧に水滴をぬぐい、かつワックスを塗るなどという光景はまずお目にかかれない。
車に対する価値観が違うのだと思わざるを得ない。

日本人赴任者の中で毎週洗車している人がいる。会社の駐車場でフランス人社員の薄汚れた車が並ぶ中にあって、いつもピカピカになっている彼の黒いプジョー407がひときわ異彩をはなっていることは言うまでもない。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『ブルターニュ残照』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。