フリースパーリング(チャユ・テリョン)

ここで、無心について話を戻すことにする。スパーリング中、生徒は冷静な心を保たなければならない。一旦感情を抑えられなくなり、注意散漫となってしまえば、敗戦にも繋がってしまう。心は、月明かりを映し出す静かな湖のように穏やかであるべきだ。

穏やかな湖は、無心の状態にあるテコンドー生徒を表している。一方で月明かりは、スパーリングパートナーを象徴的に意味している。もし生徒が無心の域に達すれば、どんな攻撃にも対処することができるだろう。

しかし、心の湖に立つさざ波は、無心の状態を取り乱してしまう。スパーリング中、考え事をしたり感情的になったりして気が散ると、相手に攻撃の隙を与えてしまう。つまり、心のコントロールは体のコントロールと同じくらい重要なのである。

無心の状態であれば、意識することなく体が動く。反射的に体が動き、その後で自分の動きを考察する。体、心、精神は一つであり、それは自身の心を満たされた状態へと導いてくれる。

日常生活において、人々は様々な物事に気を取られてしまい、実生活から引き離されている。そんな中、スパーリングは自分自身を即座に取り戻す方法の一つと言えよう。

日常的に大人も子供も、現実世界を忘れ、コンピューターが作り出した仮想世界へと誘惑されている。また時に、そうした世界へ逃げこむ必要に駆られている。これは健康的な状態とは言えない。そのため、テコンドーの中でも特にスパーリングを通じて、生徒は自分自身を取り戻す。

スパーリングは、集中力を司る体のシステムにストレスを生み出す。実際の攻撃や脅威に直面した時、人の集中力は、体と心の中心へと回帰する。突きや蹴りへの恐怖以上に、心のノイズを取り除く方法はないと言えよう。