第一章 テコンドーとは

テコンドーとは、武具を一切使用しない韓国の武道である。テコンドーは「跆拳道」とも表記され、文字通り「跆(テ)」は足、「拳(コン)」は手、「道(ドー)」は人の道を意味する。

「跆」と「拳」

「跆」とは、蹴り、飛び蹴り、防御を含む全ての足技を意味し、テコンドーは、多彩な蹴り技でよく知られている。「拳」は、攻撃と防御を含む全ての手技を指す。

「道」は、テコンドーの精神的側面、つまり人の道として大切な哲学、精神修養、稽古を表す。こうしたテコンドーの哲学、稽古、習慣は、禅仏教、孔子、老子の教えから多大な影響を受けている。

一九五五年、当時の韓国では、様々な武道が存在しそれらを一つの名称に統合しようという活動があった。そして、チェ・ホンヒ将軍(一九一八年十一月九日―二〇〇二年六月十五日)は、その活動家たちとともに「テコンドー」と名付けた。

チェ将軍は、テコンドーの創始者であることから「テコンドーの父」とも呼ばれており、韓国のテッキョンと松濤館空手の技術を組み合わせ、テコンドーという武道を創った。

一九六五年、チェ将軍は、テコンドーを世界に普及するため、演武チームとともに、エジプト、イタリア、マレーシア、シンガポール、トルコ、西ドイツを巡業した。また、マスタークォン・ジェファも演武チームの一員であった。

一九六六年になると、チェ将軍は、テコンドーの世界的な運営組織として、ITF(国際テコンドー連盟)を創設した。しかしその後、マスタークォンは、チェ将軍と決別し、伝統的テコンドーまたはクォン・ジェファ・テコンドー流派を創設した。

マスタークォンは、私がテコンドーを始めた場所でもあるドイツにこの技術を伝えている。混乱を避けるため明記しておきたいが、これらの流派とは別に、WTF(世界テコンドー連盟)が存在する。世界テコンドー連盟は、一九七三年に創設され、テコンドーは現在オリンピックの競技種目として知られている。

本書は、マスタークォンの伝統的テコンドーを基本としており、この流派がもつ価値観は、他の流派にも応用できると信じている。伝統的テコンドーでは、練習中、生徒の安全と健康を守るため、立ちの姿勢を基本とし、ノーコンタクト制を取っている。

テコンドーは、ダイナミックな蹴りとジャンプで有名である。手技の種類も同じくらい豊富だが、多彩な足技に注目されがちである。

初心者のなかには、迫力ある蹴り技に魅了され、突きや受け技を含む手技の多様性を見落としがちな人もいる。だが全体としてテコンドーで重要なのは、肉体、心、精神のバランスを取るため練習に励むことであり、トレーニングで全身を使うことである。

また、テコンドーの人気は、素材の試割りにもある。これは、突きや蹴りがもつ破壊力を表すものである。しかし、(木材、コンクリート、自然石などの)素材を割るのは、テコンドーのほんの一部にしか過ぎない。むしろ、テコンドーは、スポーツではなく「人の道」を学ぶ深い哲学なのである。

空手と同様に、伝統的テコンドーの階級制度では、生徒とマスターは区別されている。目で見て分かるように、階級は帯の色で区分されている。

生徒の階級には、白、黄、緑、青、そして赤帯があり、黒帯はマスターランクの象徴である。また、生徒の階級は級、マスターの階級は段と呼ばれる。

・ 十級と九級:白帯。白は初心者を表す色であり、テコンドーについてまだ知識もない真っ白なキャンバスのようなイメージ。

・ 八級と七級:黄帯。黄色は、大地に知識の種が植えられたようなイメージ。

・ 六級と五級:緑帯。緑は、知識の種が樹木へと成長していくようなイメージ。

・ 四級と三級:青帯。青は、成長した樹木がさらに空高く成長していく、空の色をイメージしており、無限の可能性を象徴する。

・ 二級と一級:赤帯。赤は、警告を象徴し、何か重要なことが起こることを表す色。

・ 初段から九段:黒帯。黒は、全ての色の集合体であり、上記の色と知識が一つになっているようなイメージ。また、黒は宇宙と広大な天空を象徴する色でもある。

テコンドーの流派にもよるが、西洋では、三、四、五段で「マスター」を獲得することができ、また「グランドマスター」は五あるいは七段で授与することができる。

日本語では、マスターは先生、グランドマスターは学校経営者の地位に値する。また、伝統的テコンドーにおいては、五段以上の有段者をグランドマスターとして認めている。そして九段はテコンドーの最高位を象徴する称号であり、技術面と精神面の両方において、テコンドーのリーダーとして特別な地位が与えられる。

白い道着は、生徒の基本である。白い道着は、純粋な心を象徴し、テコンドーが世界平和に寄与するという哲学を表している。また、道場に入る前は、アクセサリーやメイクを全て取り除かなければいけない。それによって、人はより本来の人間の姿に近づくことができる。

そして、生徒は皆、「道」を学ぶため道場に集まる。跆拳道の「道」は精神を表し、白い道着は、生徒たちがその精神を学ぶ時の結束を象徴するものである。

また階級と年功を示すため、黒帯を有する者は、黒い刺繍ラインがはいった道着を着用する。最後に、道場に入る前は、足を洗い、清潔な道着を着なければならない。

このように身の回りを綺麗にする習慣によって、道場と外部を区別し、道場において果たすべき目標をはっきりと意識することができる。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『人の道 伝統的テコンドーの解釈』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。