阿波踊りと狸

そして、私に何度も何度も頭を下げた。親狸だ。

「ちょっと目を離した隙にいなくなってしまいました。用水路に落ちたと思い水路沿いに走ってきました。有り難うございます」

狸の言葉が人間の話す言葉として伝わってくる。やはり私は異次元の世界にいるのだ。私はびっくりし取り乱し何をして良いか分らなくなった。

四国そのものが「他界」といわれており、死霊が集まる。ここで「遍路」は故人に出会う。死霊が集まるからといって狸が人の言葉を話すとは限らない。霊が集まってくるところは異次元が発生しやすく、こんなことが起こるのかもしれない。私は大きく息をし、心を鎮めた。

「水に浸かったので、少し体温が下がっているかもしれない。家に帰ったら温めてやってください。呼吸は大丈夫だし水も飲んでないようです」

親狸は「有り難うございます。何か、お礼をしたいのですが、生憎、今は何も持っておりません。もう1度、お会いできないでしょうか」と言う。

私は「昼間は人目に付きやすい。犬に追い掛けられるのも困るだろう。今夜8時すぐそこの医院に来てくれ。門のところで待っている」と言った。

狸は「先ほどから、狸を相手にお話くださり有り難うございます。狸と会話ができることを不思議と思われていると思いますが、私が姿を現す時は極めて狭い範囲が異次元となり狸のみならず、他の動物との会話も可能です。この能力に気付いたのは、実を言うとごく最近のことです。これからもお気遣いなくお話ください」不思議な話だ。

「人間のみならず他の動物との会話ができるとのことだが、どうして、そのようなことができるようになったのだ」私は訊ねた。

狸は答えた。